特許庁:ネイルサロン「Ellenail」は、有名ファッション誌「ELLE」と混同のおそれなし

[Newsletter vol. 163]

 特許庁は、令和4年10月7日、ネイル用品・ネイルサロンにおける商標「Ellenail」の使用が、有名ファッション誌「ELLE」との間で出所混同を生ずるかが争われた異議申立事件において、両商標は類似しておらず、ネイル用品及びネイルサロンの需要者が出所について混同を生ずるおそれはないとして、ELLE側の申立てを退ける判断を下しました。
[異議2021-900440号決定]


本件商標

 株式会社エスソーシャルマネジメントは、2020年8月14日、欧文字「Ellenail」からなる商標を、第3類「ネイルエナメル,ネイルペイント用化粧品,ネイルケア用化粧品,ネイルシール,ネイルアート用の付け爪」、第18類「携帯用ネイルケアセット入れ」、第21類「ネイルアート用ブラシ,ネイルボード」及び第44類「爪のカット・甘皮の処理・ネイルケア・ネイルアートを主とする手足の美容」他において特許庁に出願しました(商願2020-105943)。

 同社のウェブサイトによれば、本件商標を付したネイルサロン「Ellenail」(エルネイル)を渋谷・新宿・大阪に展開しているようです。


異議申立て

 本件商標が特許庁において登録されたため、ファッション誌「ELLE」を管理する仏国法人アシェット フィリパキ プレス ソシエテ アノニム(HFP社)は、2021年12月17日、本件商標に対して異議を申し立てました。

 HFP社は、本件商標構成中の「nail」の文字部分は、ネイルに関する商品・役務との関係において自他商品役務識別標識としての機能を発揮し得ず、「Elle」の文字部分が要部であるところ、本件商標の要部と引用商標「ELLE」とは明らかに同一又は類似する。また、ファッション誌「ELLE」は我が国の需要者の間で著名性を獲得しており、本件商標の需要者も共通することから、本件商標が指定商品・役務に使用された場合、出所について混同を生ずる、と主張しました。


特許庁の判断(維持決定)

.商標法4111号(商標の類否)

 本件商標の構成文字は、「ll」の文字部分の書体は異なるものの、構成全体としては、ほぼ同じ大きさ及び書体(筆記体)で、字間なく、横一列に、まとまりのよい不可分一体の構成からなるものである。そして、「Ellenail」の構成文字は、辞書等に掲載された語ではないから、具体的な意味合いを想起させない造語を表してなると看取できる。そうすると、本件商標は、その構成文字に相応して、「エレネイル」の称呼が生じ得るが、特定の観念は生じない。

 本件商標は、フランス語「Elle」と英語「nail」という異なる言語の単語を結合した造語であると連想させることがあり得るとしても、いずれかの文字部分が、出所識別標識として分離独立した強い印象を与えるものではなく、特定の文字部分から称呼及び観念が生じないものとはいえないから、構成文字全体より生じる称呼及び観念をもって取引されるというべきで、その構成中「ELLE」の文字部分を要部として引用商標との類否を比較、判断することは適切ではない

 本件商標と引用商標の類否を検討すると、外観においては、構成文字の一部を共通するとしても、構成文字全体としては異なる語(「Ellenail」と「ELLE」)を表してなるから、判別は容易である。また、称呼においては、構成音(「エレネイル」と「エル」)及びその音数が明らかに異なるから、聴別は容易である。さらに、観念においては、いずれも特定の観念は生じないから比較できない。そうすると、本件商標と引用商標は、観念において比較できないとしても、外観及び称呼において判別は容易だから、それぞれの外観、称呼及び観念によって与える印象、記憶等を総合して考察すれば、別異の商標といえるもので、相紛れるおそれのない非類似の商標である。

2.商標法4条第1項第15号(出所混同のおそれ)

 申立人商標「ELLE」は、本件商標の登録出願時及び登録査定時において、商品「雑誌」との関係において、少なくともファッション分野に高い関心を有する需要者及び取引者の間において広く認識されていたとしても、ELLE」の欧文字は、フランス語の成語に相当し、独創性を欠くもので、本件商標と申立人商標は、相紛れるおそれのない別異の商標であり、また、本件商標の指定商品及び指定役務(ネイルと関連した商品及びサービス)は、「ELLE」ブランドが展開されている商品及び役務とは、必ずしも密接な関連性はない

 そうすると、本件商標は、その指定商品及び指定役務について使用されるときであっても、取引者、需要者をして申立人又は申立人商標との関連性を連想又は想起させることは考えにくく、その商品が他人(申立人)あるいは同人と経済的若しくは組織的に何らかの関係を有する者の業務に係るものであるかのように、その商品の出所について混同を生ずるおそれはない。

周知著名商標が絡む事案とすれば、フランス語「elle」と英語「nail」の我が国における認知度の違いを考慮しますと、本件商標を不可分一体の商標と捉え、本件商標から生じる称呼に「エルネイル」をあげなかった特許庁の認定については、疑問に感じます。周知著名性の程度に応じて、商標の類否の評価手法を区別するアプローチが必要かと思われます。