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最新号(VOL.224 – 2025/05/15)

知財高裁:「日本食育防災士」は「防災士」と商標非類似なるも、出所混同おそれあり

[Newsletter vol.224]


知的財産高等裁判所は、令和7年4月24日、第41類「技芸・スポーツ又は知識の教授」他を指定する登録第6521920号商標「日本食育防災士」(以下、本件商標)が、特定非営利活動法人日本防災士機構の運営に係る民間資格「防災士」と類似し、また、出所混同のおそれが争われた審決取消訴訟において、出所混同のおそれを否定した特許庁の判断(無効2023-890093号、原審決)を取り消す判決を言い渡しました。
[知財高裁 令和6年(行ケ)第10095号/第2部清水裁判長]


本件商標

 株式会社クレバーエンタープライズは、2021年11月2日、標準文字からなる商標「日本食育防災士」を、第41類「技芸・スポーツ又は知識の教授」等を指定して、特許庁に出願しました(商願2021-142443)。早期審査により、翌1月14日に登録査、同年3月3日に設定登録されました(商標登録第6521920号)。本件商標は、その後、一般社団法人日本食育HEDカレッジに譲渡されました。


引用商標

 特定非営利活動法人日本防災士機構は、「防災士」の文字商標を第41類「技芸・スポーツ又は知識の教授」等において、2005年1月21日に登録(現在も有効に存続)し、平成15年依頼、「防災士」の資格取得試験を実施し、資格を認証する事業を行ってます(累計認証者数:29万人以上)。

 

 2023年12月26日、民間資格「防災士」と類似し、出所混同のおそれがあるとして、本件商標「食育防災士」に対し無効審判を請求しました(無効2023-890093)。


棄却審決(特許庁の判断)

 特許庁は、本件商標構成中の『「防災士」の文字部分は、防災関連資格の名称を連想させるとはいえ、その専門分野や業務の内容を記述する語を組み合わせたにすぎず、需要者、取引者に対して、自他役務の出所識別標識として強く支配的な印象を与える要部とはいえない。したがって、本件商標から「防災士」の文字部分だけを抽出して、引用商標との類否を判断することは適切ではない。』、『本件商標と引用商標を比較すると、外観上、構成文字全体としては異なる語(資格名)を表してなるから、判別は容易である。称呼においては、全体を一連に称呼するときは、語調、語感は異なるものとなり、聴別は容易である。観念においては、本件商標からは特定の観念は生じない、又は造語よりなる固有の民間資格を連想させるから、相紛れるおそれはない。したがって、両商標は、外観及び称呼において判別又は聴別は容易であり、観念において相紛れるおそれはないから、それらが与える印象、記憶、連想等を総合し全体的に考察すれば、役務の出所について誤認混同を生じるおそれはなく、類似する商標とはいえない。』と認定しました。また、出所混同のおそれについて、『引用商標は、防災関係者の間においてある程度の周知性を獲得していたとしても、我が国の一般需要者の間において広く親しまれた著名な民間資格ではない。また、防災関連資格の名称としては独創性の程度は低く、本件商標と引用商標の類似性の程度は低い。そうすると、本件商標をその指定役務について使用したとしても、これに接する需要者は、引用商標とは異なる固有の民間資格を連想するとしても、引用使用商標又は原告を連想、想起し、当該役務が原告又は原告と経済的若しくは組織的に何らかの関係を有する者の業務に係る商品又は役務であるかのように、役務の出所について混同を生ずるおそれはない。』として、2024年9月19日、無効審判請求を棄却する審決(原審決)を下したことから、これを不服として、同年10月25日、知財高裁に原審決の取消しを求める訴訟を提起しました。


知財高裁の判断 

 知財高裁は、商標の類否に関する原審決の判断に誤りはないものの、出所混同のおそれの認定判断に誤りがあるとして、以下のように述べ、原審決を取り消しました

  • 本件商標「日本食育防災士」は、引用商標「防災士」と区別して識別することができるものではあっても、その需要者からみれば、「防災士」と全く無関係なものではなく、何らかの関連性を有する資格ではないかという連想を生じさせ得る
  • 本件商標の指定役務の需要者には、防災又は防災に関する資格について関心を有する者が含まれており、このような需要者の間においては引用商標は周知であると認められる。
  • 引用商標は、「防災」の語に資格者を示す「士」を加えたにすぎず、その独創性の程度は高いとはいえない
  • 本件商標の指定役務は、被告の事業の一つである「防災・非常用途の食糧品及びツールに関する商品情報の収集、危機管理情報の収集、分析、提供サービス」に係る役務として提供されるときは、いずれも、防災と食をテーマとするという意味において、本件各使用商標を使用して行う原告の啓蒙活動等の業務と対象分野が重なることになる。そうすると、本件商標の指定役務と原告の業務に係る役務との間の性質、用途又は目的における関連性の程度は、高い
  • 本件商標の指定役務の需要者と本件各使用商標に係る原告の業務の需要者は、いずれも防災又は防災に関する資格に関心を有する者が含まれるから、需要者の共通性が認められる
  • 本件商標をその指定役務に使用するときは、その需要者の普通に払われる注意力を基準としても、その役務が原告の「防災士」と何らかの関係を有する防災関係の資格であって、原告又は原告が認めた関係機関が運営・管理するものの業務に係る役務であるとの混同(広義の混同)を生ずるおそれがある。
商標は非類似であるものの、「何らかの関連性を有する資格との連想を生じさせ得る」として、混同のおそれが認定されました。指定役務に含まれる一部の役務において周知性が認められれば、商標登録が全部無効とされる可能性がある点に注意が必要です。

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