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最新号(VOL.204 – 2024/07/15)

知財高裁:需要者は「デジタル医療モール」の語を何人かの業務に係る商品・役務とは認識しない

[Newsletter vol. 204]


知的財産高等裁判所は、令和6年6月5日、文字商標「デジタル医療モール」の商標法第3条第1項第6号該当性が争われた拒絶審決取消訴訟において、特許庁の判断を支持し、需要者は、本願商標を自他商品役務識別標識としては認識しないとして、原告の請求を棄却しました。
[知財高裁 令和6年(行ケ)第10011号/第4部宮坂裁判長]


本願商標

 本願商標は、標準文字で書された「デジタル医療モール」からなり、第9類「電子応用機械器具及びその部品,コンピュータプログラム及びコンピュータソフトウェア,アプリケーションソフトウェア,記録された又はダウンロード可能なコンピュータソフトウェアプラットフォーム」、第35類「医師の紹介,市場調査又は分析,商品の販売に関する情報の提供,経営の診断又は経営に関する助言,事業の管理,コンピュータデータベースへの情報編集,消費者のための商品及び役務の選択における助言と情報の提供」、第44類「医療に関する相談,医療に関する相談の媒介,医療に関する情報の提供,医療に関するコンサルティング,インターネットによる医療に関する情報の提供,調剤,服薬指導,健康診断,健康管理,ダイエット・栄養摂取又は健康管理に関する情報の提供,栄養の指導,ダイエット・健康管理に関する助言・指導・診断」を指定して、2022年2月9日に特許庁に出願されました(商願2022-14429)。

 特許庁は、2024年1月11日、拒絶査定不服審判に対する審決(不服2023-7242号)において、本願商標は商標法第3条第1項第6号に該当すると判断したことから、出願人は、これを不服として、本年2月13日、審決取消訴訟を提起しました。


知財高裁判断

 知財高裁は、以下ように述べ、本願商標は、需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識することができない商標であり、商標法第3条第1項第6号に該当する、と判断しました。 

  1. 本願商標の構成を元に観察すれば、「デジタル」の語と「医療モール」の語からなると理解することも、あるいは「デジタル医療」の語と「モール」の語からなると理解することも不可能ではない。しかしながら、「デジタル」の文字は、他の語と結合した「デジタル〇〇」の態様で「デジタル技術を用いた〇〇」ほどの意味合いで汎用的に広く用いられ、デジタル技術を利活用した医療や治療に関して、「デジタルセラピー」、「デジタル医療」、「デジタル治療」、「デジタルヘルス」と称されている実情がある。また、「医療モール」の文字は、「診療科が異なるいくつかのクリニックが1カ所に集まっている運営形態」といった語として広く使用されている。
  2. 以上のような実情を踏まえると、本願商標は、「デジタル」技術を利活用して行われる仮想的な「医療モール」、すなわち「様々な医療機関に係るサービスを、デジタル技術を用いて構築した 1 か所のプラットフォーム上で提供又は利用できる仕組み」といった意味合いを容易に理解・認識させるものと認められる。そして、本願商標に接し、上記意味合いを理解・認識した需要者は、本願商標について上記の仕組みの下で提供される商品又は役務であることを表現するための語句であると理解、認識するにとどまり、自他商品役務の識別標識としては認識しないといえる。
  3. 原告は、本願商標である「デジタル医療モール」という語が、本願商標の指定商品役務に関し、他で一般的に使用されているという実例がないことから、本願商標は造語であり、指定商品役務との関係で識別性を有すると主張する。しかし、商標法3条1項6号は、需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識することができない商標につき、商標登録を受けることができないとしたものであり、同号の適用において当該商標が現実に使用されていることを要求するものではない。本願商標に関して他の使用例がないことは、上記の認定判断を妨げるものではない。
個人的な意見ですが、文字(日本語)の結合商標の識別力の判断においては、結合する文字同士の親和性(日本語としての結びつき易さ)も評価に加え、商標全体から生じる意味合いが自他識別力を欠くとしても、両語の親和性が低ければ、表現の特徴において自他識別力が肯定されるべきように思います。この観点において、バーチャル空間での商取引が現実化しつつある昨今の状況下、「デジタル」と「医療モール」の語の親和性は高まっていることから、本願商標の自他識別力を否定した裁判所の上記判断は、結論として妥当かと思います。

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