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最新号(VOL.132 – 2021/07/15)

欧州連合:注目判決、音声データで出願された「音商標」の識別力に関する初の裁判

[Newsletter vol. 132]

2021年7月7日、欧州連合一般裁判所(General Court of the European Union)は、音声データを用いて欧州知的財産庁(EUIPO)に出願された「音商標」の登録性が争われた初の裁判で、音商標の識別力について、商品又は商品の包装の立体形状に関する識別力と同等に評価すべきではない、との判断を示しました。
[Judgment in Case T-668/19, Ardagh Metal Beverage Holdings v EUIPO] 判決文は、こちら


欧州連合商標 no. 17912475

問題となった欧州連合商標(EUTM)は、2018年6月6日にドイツ法人アルダーメタルビバレッジホールディングス社(Ardagh Metal Beverage Holdings GmbH & Co. KG)が、第6,29,30,32,33類の商品(飲料、金属容器)を指定し、音声データ(auditory file)を用いて出願した「音商標」です。

本件商標は、金属缶のタブを開ける音、その後1秒程して、炭酸の泡が弾ける音が9秒ほど続く構成からなります。

EUTM no. 17912475

欧州知的財産庁(EUIPO)の判断

EUIPOの審査官及び審判部は、立体商標の識別力の判断基準に関する裁判例を引用し、音商標に関する識別力の評価基準も同等に捉え、需要者が商品を利用しない限り、本件商標の音が発生しないことから、一般公衆の多くは、音を未開封の飲料容器やパッケージ入り飲料の出所表示として認識する習慣がなく、また、本件商標を構成する音自体、出所表示としての識別力を欠くとして、登録を拒絶しました。アルダーメタル社は、この判断を不服とし、欧州連合一般裁判所に提訴しました。


欧州連合一般裁判所の判決

裁判所は、音商標の識別力に関して、EUTMR第7条(1)(b)が別段の定めを設けていない以上、他の種類の商標に適用される評価基準と何ら変わらず、すなわち、音商標がそれ自体、需要者が当該音を聞いて、商品の機能から派生したものではなく、また、商品の本来的な品質・性状とは関係なく、出所表示(商標)だと認識できる要素を備えている必要がある、と判示しました。

The criteria for assessing the distinctive character of sound marks do not differ from those applicable to other categories of marks and a sound mark must have a certain resonance that enables the target consumer to perceive it as a trademark and not as a functional element or as an indicator without by inherent characteristics.

その上で、EUIPOの認定について、以下の2点において誤りがあると指摘しました。

  1. EUIPOは、商品又は商品の包装の立体形状の識別力の評価基準を示した先行判例[Judgement of 7 October 2004, Mag Instrument x OHIM (C-136/02 P)]を引用し、商品や商品の包装の外観における立体的形状は需要者が容易に視認することができるところ、需要者は、取引慣行や実情に応じて、様々な商品の形状を目にすることに慣れており、当該立体商標が商品のありふれた形状と同一又は類似する場合には、出所標識として認識しないことから、立体商標の識別力が認められるには、立体商標が当該商品における通常の外観・形状と著しく異なっている必要があるとの裁判所の見解に照らし、本件商標の構成音は、極めて簡単(extraordinary simplicity)、且つ、ありふれた(everydayness)音のみからなるため、自他識別力を欠くと結論付けた。しかしながら、文字や図形、音といった立体形状以外の商標は、商品の外観や形状とは切り離して存在するものである。当該判決は、立体商標と他の商標とでは、平均的な需要者の認識が異なることを明示したに過ぎず、平均的な需要者の認識は、音商標と立体商標とでは必ずしも同じとは言い得ないことから、音商標の識別力について、立体商標の識別力の判断基準と同等に評価するのは適当ではない
    The perception of the average consumer is not necessarily the same in the case of a three-dimensional mark as in the case of a word, figurative or sound mark, which consists of a sign independent of the exterior appearance or shape of the goods. Consequently, the Court holds that case-law relating to three-dimensional marks cannot, in principle, be applied to sound marks.
  2. EUIPOは、需要者が商品を消費(飲料を飲むために缶のタブを開封)しない限り、商品から音が出ないことを理由に、飲料や包装容器を取り扱う業界において、音のみをもって商品の出所を表示するとは一般的に認識されない、と結論付けた。しかしながら、殆どの商品が、それ自体音を発するわけではなく、また、消費される時にのみ音を出すことから、商品を消費する時にしか音が認識できない事実をもって、特定の出所を表示する音商標の使用が、当該業界において一般的ではないと断定することはできない
    The Court points out that most goods are silent in themselves and produce a sound only when they are consumed. Thus, the mere fact that a sound is made only an consumption does not mean that the use of sounds to indicate the commercial origin of a product on a specific market would still be unusual.

原審決の上記の誤りを指摘しつつも、裁判所は、本件商標が指定商品に使用された場合、需要者がその構成全体から特定の出所を表すものと認識することはできないとし、本件商標の登録を拒絶した原審決を支持する判決を言い渡しました。
The sound elements and the silence of approximately one second, taken as a whole, do not have any inherent characteristic that would make it possible for them to be perceived by that public as being an indication of the commercial origin of the goods.


日本でも、2015年4月から「音商標」の登録制度が始まりましたが、「音」の識別力の評価について、裁判所で争われた事例は未だ有りません。商標の種類や取引の実情によって需要者の認識が異なるという裁判所の判断は、実務的にも参考になるかと思います。

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