知財高裁:商標権者との関係が不明な中間流通業者による商品の販売によって、不使用は免れず

[Newsletter vol. 164]

知財高裁は、令和4年11月9日、米国輸入品をAmazonサイトでネット販売する中間流通業者が国内の需要者向けに販売する商品のウェブページにおける商標の使用が、商標法第50条の登録商標の使用に該当するかが争われた裁判において、商標権者と中間流通業者との関係が全く不明で、販売された商品の出所も不明であるとして、台湾法人エイサー・インコーポレイテッドの訴えを退ける判決を言い渡しました。 

[令和2年(行ケ)第10120号審決取消請求事件/第2部:森裁判長]

本件商標

 問題となった商標は、原告・台湾法人エイサー・インコーポレイテッド(以下、エイサー)が現在所有する右掲の登録第2244788号商標「PACKARD BELL」(以下、本件商標)で、1990年7月30日に登録されました。

判決文によると、パッカードベル社は,1926年に米国で創業、本件商標を出願した頃から一般家庭ユーザー向けのパーソナルコンピュータを販売、1996年にはNECと合併してパッカードベルNECジャパンを設立し、日本国内においてパーソナルコンピュータを販売したものの、1999年11月頃に日本国内の工場を閉鎖。その後、「パッカードベル」のブランド名は、日本で不使用となりました。2008年に同社を買収した台湾法人エイサーが本件商標の商標権者になり、パッカードベル社は現在もエイサー傘下で事業を行い、家庭用電機製品を世界31の国や地域で取り扱っているようです。


不使用取消審判

 被告・米国法人ピービーエックス・ホールディング・エルエルシー(以下、PBX)は、2017年12月に米国法人JLP社から米国商標権「PACKARD BELL」を譲受け、2018年3月、日本において同じ文字商標を指定商品を第9類として出願した後、同月16日、本件商標に対して不使用取消審判を請求しました(取消2018-300153)。

特許庁は、エイサーが「液晶パネル」における本件商標の使用事実を裏付ける証拠資料(CHIKAZOのamazon.co.jp における「Packard Bell Easy Note tk37 シリーズ15.6 “ LCD LED 表示画面WXGA HD Screen Size: 15.6“ LED-1366-768-G-40-15.6-14140」と題するウェブページのプリントアウト)について、『商標権者に係る商品であるとする表示はなく、また、商標権者により製造されたものであるかも不明であり、さらに、上記販売元と商標権者の関係も不明である。』と述べ、商標法50条の規定により、本件商標の一部を取り消す審決を下したことから、これを不服として、エイサーは、知財高裁に審決取消訴訟を申し立てました。

原告は、CHIKAZOは業としてAmazonサイト上で商品を販売等しており、本件ウェブページでの「Packard Bell」との表示も名目上の使用や偽りの表示などではないことは明らかである。CHIKAZOは日本に所在する「輸入ショップ」であり、原告が有するPBブランドに係る本件液晶パネルの日本における流通業者である。CHIKAZOのような中間流通業者が、原告のPBブランドに係る本件液晶パネルを販売するAmazonサイト上の本件ウェブページにおいて「Packard Bell」との文字を表示させることは、「商品・・・に関する広告,価格表若しくは取引書に標章を付して展示」(商標法2条3項8号)する行為にほかならず、このような行為は、商標権者である原告による「使用」に当たる、と主張しました。


知財高裁の判断

 知財高裁は、ネット輸入業者CHIKAZOのamazon.co.jpウェブページにおける表記について、以下のとおり判断しました。

  1. 本件証拠上,CHIKAZOが本件商標権について,「商標権者,専用使用権者,通用使用権者」(本件商標権者等)に当たると認めることはできないのはもとより,本件商標権者等といかなる関係にある者であるかは全く明らかではない。また、CHIKAZOは、自らを米国からの直輸入品を扱う輸入業者であるとしているところ,原告は,米国において,製品を販売しているとは認められないこと,原告からCHIKAZOに原告の商品が流通した経路が本件において全く明らかになっていないことを考慮すると,本件ウェブページには,「Packard Bell Easy Note tk37 シリーズ15.6」等の表示があるものの,本件ウェブページを用いてCHIKAZOが販売していた「Packard Bell Easy Note TK37 シリーズ」が,原告の製品であるかどうかは本件の証拠上,明らかでないというほかない。
  2. 仮に,本件ウェブページにおいて,本件商標が使用されているとしても,本件商標権者等との関係が全く不明であり,しかも,販売している商品も不明である商標の使用をもって,本件商標権者等による本件商標の使用を認めることはできない
  3. 以上によると,原告は,本件要証期間内に,日本国内において,商標権者,専用使用権者又は通常使用権者のいずれかが,本件指定商品について,本件商標の使用をしていることを証明したとは認められないから,本件指定商品に係る本件商標登録は,取り消されるべきである。
  4. なお,原告の主張するFashion Walker事件判決は,流通業者が,ウェブサイトなどを通じて,商標の通常使用権者の商品を販売していたことが認定された事案であり,本件とは,事案を異にする
  5. 商標法50条は,一定期間使用されていない商標については,商標権者等の業務上の信用の維持を図る必要はない上,かえって国民一般の利益を害することになるため,第三者による商標登録の取消請求を認めたものであると解される。そうすると,当該第三者が,商標権者等の登録商標の使用をあえて妨害するなどの特段の事情がない限り,その商標登録の取消請求が信義則に反するとか権利濫用になると認めることはできない
自社製品と認識されるモノが現に流通していたとしても、それが商標権者又はライセンシーから流れ出たものであることを明らかにできず、また、その出所(製造者)も明らかにできなければ、消費者の認識に反して、登録商標は使用されていないと判断され、権利が取り消されるリスクがあることを本件裁判は示唆しており、実務家としては注意が必要です。