特許庁:<判定>「こころみクリニック」は登録商標「こころみ」の効力範囲に属さない

[Newsletter vol. 165]

 特許庁は、令和4年11月1日、医療や健康診断サービスに使用する「こころみクリニック」(以下、イ号標章)が、登録第5979445号商標「こころみ」(第44類:医業,健康診断,栄養の指導他。以下、本件商標)の商標権の効力の範囲に属するかの判定請求事件において、両商標は類似しておらず、本件商標権の効力の範囲に属しないと判断しました。
[判定2022-600017号]


本件商標

 本件商標は、「こころみ」の文字を標準文字で表してなり、平成28年11月18日に商標出願、第44類「医業,医療情報の提供,健康診断,調剤,栄養の指導,有害動物の防除(農業・園芸又は林業に関するものに限る。),あん摩・マッサージ及び指圧,カイロプラクティック,きゅう,柔道整復,はり,動物の飼育,動物の治療,動物の美容」を指定役務として、同29年9月8日に設定登録され、現に有効に存続しています。


イ号標章

 イ号標章は、「こころみクリニック」の文字を普通に横書きしてなるものであり、「医業,医療情報の提供,健康診断,栄養の指導」サービス(以下、使用役務)について使用するものです。


判定請求

 本件商標権者は、イ号標章の使用者は使用権者であって、イ号標章の使用について合意しているものの、本件商標の商標権の効力の範囲にイ号標章が含まれているかの確認を行う必要性が生じたことから、使用役務に使用するイ号標章は、本件商標の商標権の効力の範囲に属するとの判定を特許庁に求めました。

 判定請求書において、「クリニック」は「診療所」等を意味する英語であって、使用役務「医業,医療情報の提供,健康診断,栄養の指導」の提供場所を指し示すものであるから、自他役務識別力はない。一般的なクリニックにおいて、医業サービスと共に「栄養の指導」が行われている実情があることに鑑みれば、「栄養の指導」との関係においても、「クリニック」の語は、出所識別標識としての称呼、観念が生じない。一方、「こころみ」の語は、直ちに特定の観念が生じない造語の商標であって、また「医業」等の役務との関係において、一般的に使用されている商標でもないため、「こころみ」の語は、出所識別標識として強く支配的な印象を与える。そうすると、イ号標章を構成する「クリニック」の語は、使用役務「医業」等との関係において、出所識別標識としての機能を発揮せず、また「こころみ」の部分は強く支配的な印象を与えるものといえることから、イ号標章は「こころみ」の語のみを分離抽出して商標の類否を判断することは許容されるというべき。そして、イ号標章から分離された「こころみ」の語は、本件商標と同一であることから、イ号標章と本件登録商標は「こころみ」の語を共通にする類似する商標である、と主張しました。 


特許庁の判定

.本件商標とイ号標章との類否

 イ号標章「こころみクリニック」は、同書、同大、等間隔に外観上まとまりよく一体に表されており、構成全体から生じる「ココロミクリニック」の称呼も無理なく一連に称呼し得るものである。そして、「クリニック」の文字が「診療所」等を意味する英語の「clinic」の文字を片仮名で表したものと認められるとしても、構成全体として固有の診療所(クリニック)名を表したものとして理解されるというのが自然である。さらに、「こころみ」の文字は、成語である「試み」の文字を平仮名で表したものと認識するものであって、役務の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものとは認められない。そうすると、イ号標章は、その構成全体から生じる「ココロミクリニック」の称呼を生じ、「「こころみクリニック」という名称の診療所」ほどの観念を生じるのが相当である。

 本件商標とイ号標章の外観を比較すると、語尾の「クリニック」の文字の有無において、相紛れるおそれはない。また、称呼については、語尾の「クリニック」の音の有無に差異があり、構成音及び全体の音数が明らかに異なるため、互いに容易に聴別できる。さらに、観念においても、本件商標からは、「ためしにやってみること。企て。」の観念を生じるのに対し、イ号標章からは、「「こころみクリニック」という名称の診療所」ほどの観念を生じるものであるから、両者は、観念においても相紛れるおそれはない。してみれば、本件商標とイ号標章とは、外観、称呼及び観念のいずれの点からみても相紛れるおそれのない非類似の標章というべきである

.本件商標の指定役務とイ号標章の使用役務との類否

 イ号標章の使用役務は「医業,医療情報の提供,健康診断,栄養の指導」であるから、本件商標の指定役務中、第44類「医業,医療情報の提供,健康診断,栄養の指導」は、使用役務と同一の役務である。

3.結論

 本件商標とイ号標章とは非類似のものであるから、本件商標の指定役務とイ号標章の使用役務が同一又は類似の役務であるとしても、使用役務に使用するイ号標章は本件商標の商標権の効力の範囲に属しないと判断するのが相当である。

使用役務との関係で「クリニック」の語が明らかに識別力を欠くこと、平仮名と片仮名で構成文字の種類が異なることを勘案しますと、「こころみクリニック」の構成において、「こころみ」の文字が出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものではないとの特許庁の認定は、些か疑問に感じます。