特許庁、判定事件:ワインボトルの立体的形状及びデザインに係る商標権の効力範囲

[Newsletter vol.140]

第33類指定商品「ワイン」において立体商標として登録された国際登録第1174009号商標(以下、本件商標)の権利者SANDRO BOTTEGA社から、イ号標章の形状を施した商品「スパークリングワイン」の販売は本件商標権を侵害するとして警告を受けたエノテカ株式会社の申立てによって争われた判定請求事件において、特許庁は、商品「スパークリングワイン」に使用するイ号標章は、本件商標の商標権の効力の範囲に属しない、と判定しました。
[判定2020-695002]


【背景】

 エノテカ株式会社が、全体を銀色のフィルムで覆ったワインボトルの正面胴体部分に設けた銀色の縦長長方形図形の中に「EPSILON PLATINUM」を横書き縦方向に二段で記載し,その上に欧文字「E」を配した態様からなる立体的形状(以下、イ号標章)商品「スパークリングワイン」を日本国内に輸入し,国内で販売していたところ、令和2年9月29日、SANDRO BOTTEGA社より、本件商標の商標権を侵害する旨の警告を受領した。そこで、エノテカ社は、本件商標に係る商標権の効力の範囲について,専門的知識をもって中立的立場から判断される判定を特許庁に求めました。


【特許庁の判断】

(1)本件商標について

 本件商標は,金色のボトルネックが細く底がすぼまったワインボトルの立体的形状であり,当該ワインボトルの正面胴体部分に瓜形の「炎図形」を配し,その上部にデザイン化した欧文字「B」をあしらった態様からなるものである。

 そして,本件商標の立体的形状の特徴は,ボトルネックが細く底がすぼまったものであり,いずれも特徴的な印象を与えるものではなく,商品の機能又は美感を発揮させる目的以外により採択されたものとは理解し難い

 そうすると,本件商標の立体的形状は,「ワインボトル」の形状として,商品の機能又は美感に資することを目的として採用されたと,客観的に理解できるものであって,本件商標に係る商品の形状を普通に用いられる方法で表示するにすぎないというべきであるから,商標法第26条第1項第2号に該当するものである。

したがって,本件商標は,その構成中,瓜形の「炎図形」とデザイン化した「B」の文字部分が自他商品識別標識としての機能を発揮する部分と認めるのが相当であり,炎図形からは特定の称呼は生じないものであって,「炎」の観念が生じるものである。

(2)イ号標章について

 イ号標章は,銀色のボトルネックが細く底がすぼまったワインボトルの立体的形状であり,当該ワインボトルの正面胴体部分の縦長長方形内に,「EPSILON」と180度回転させた「PLATINUM」の文字を横書き縦方向に二段で記載し,その上にデザイン化した欧文字「E」をあしらった態様からなるものである。

 そして,イ号標章の立体的形状の特徴は,ボトルネックが細く底がすぼまったものであり,いずれも特徴的な印象を与えるものではなく,商品の機能又は美感を発揮させる目的以外により採択されたものとは理解し難い。

 そうすると,イ号標章の立体的形状は,「ワインボトル」の形状として,商品の機能又は美感に資することを目的として採用されたと,客観的に理解できるものであって,イ号標章に係る商品の形状を普通に用いられる方法で表示するにすぎないというべきであるから,商標法第26条第1項第2号に該当するものである。したがって,イ号標章は,その構成中「EPSILON PLATINUM」文字部分とデザイン化した「E」の文字部分が自他商品識別標識としての機能を発揮する部分と認めるのが相当であり,「EPSILON PLATINUM」の文字部分に相応し「イプシロンプラチナム」の称呼を生じ,特定の観念は生じないものである。


(3)イ号標章が本件商標の商標権の範囲に属するか

 本件商標における商標権の効力が及ばない立体的形状以外の図形及び文字と,イ号標章の効力が及ばない立体的形状以外の各文字を比較すると,両者は,図形の有無及び文字の相違において明らかな差異を有するものであるから,外観において相紛れるおそれはない。

 本件商標からは,特定の称呼は生じないのに対し,イ号標章は「EPSILON PLATINUM」の構成文字に相応して「イプシロンプラチナム」の称呼が生じるから,称呼において相紛れるおそれはない。

 観念においては,本件商標からは,「炎」の観念が生じるのに対し,イ号標章からは特定の観念が生じないものであるから,両者は,観念において相紛れるおそれはない。

 してみれば,本件商標とイ号標章とは,外観,称呼及び観念のいずれの点からみても相紛れるおそれのない非類似の標章というべきである。

 以上のとおり,本件商標とイ号標章とは,非類似のものであるから,商品「スパークリングワイン」に使用するイ号標章は,本件商標の商標権の効力の範囲に属しない

本件の特許庁の判断は極めて妥当かと思いますが、判定までに5カ月要しており、侵害警告を受けた事案であることを勘案しますと、「早期判定制度」を設け、より迅速に判定が得らえれば、判定の利用価値は高まるように思います。