特許庁:保険サービス名称の商標紛争、「スマ保」と「スマ保険」とは非類似

[Newsletter vol.141]

 特許庁は、令和3年11月8日、太陽生命保険が保険サービスの名称として商標登録した「スマ保険」について、三井住友海上が所有する先登録商標「スマ保」と類似し、誤認混同のおそれがあるかが争われた無効審判事件において、三井住友海上火災保険の主張を退け、「スマ保険」と「スマ保」の両商標は類似せず、誤認混同のおそれもない、と判断しました。[無効2020-890067号審決]


本件商標「スマ保険」

 太陽生命保険株式会社は、2019年6月20日、第36類指定役務「生命保険契約の締結の媒介,生命保険の引受け,損害保険契約の締結の代理,損害保険の引受け,保険料率の算出,生命保険及び損害保険に関する情報の提供」において、標準文字からなる商標「スマ保険」を出願し、その後、同年10月25日に早期審査を申し立てたところ、同年11月12日に登録査定が送達され、同月22日、特許庁において設定登録されました(商標登録第6201054号)。

 同社のウェブサイ「太陽生命ダイレクト」には、本件商標「スマ保険」が各種保険サービスに関連して使用されています。

https://www.taiyo-seimei.co.jp/net_lineup/

引用商標「スマ保」

 三井住友海上火災保険株式会社は、2012年1月17 日より、第36類指定役務「生命保険契約の締結の媒介,生命保険の引受け,損害保険契約の締結の代理,損害保険に係る損害の査定,損害保険の引受け,保険料率の算出,保険に関する助言,保険情報の提供」において、標準文字からなる商標「スマ保」を所有しており(商標登録第5465749号)、自動車保険・火災保険・傷害保険等に関する便利で役立つサービスを提供するアプリの名称として、引用商標「スマ保」を使用しています。

https://www.ms-ins.com/sumaho/

 昨年9月17日、三井住友海上は、本件商標は引用商標と類似し、誤認混同のおそれがあるため、商標法第4条第1項第7号、第11号、第15号、第19号に違反し誤って登録されたものであるとして、特許庁に登録無効審判を請求しました。


特許庁の判断

 特許庁は、本件商標と引用商標との類否(商標法第4条第1項第11号)について、以下のように述べ、両商標は非類似と結論付けました。

 『本件商標と引用商標との類否について検討するに、両者は、末尾の「険」の文字の有無の差異を有するものであり、この差異が、4文字と3文字という短い文字構成からなる両者の外観の視覚的印象に与える影響は小さいものとはいえず、両者は外観において判然と区別し得るものである。

 次に、称呼についてみるに、本件商標から生じる「スマホケン」の称呼と引用商標から生じる「スマホ」の称呼とは、「スマホ」の音を同じくするとしても、3音と5音いう短い音構成であることからすれば、語尾における「ケン」の音の有無が称呼全体に及ぼす影響は小さいものとはいえず、両者は、称呼において明瞭に聴別し得るものである。

 さらに、本件商標及び引用商標は、いずれも特定の観念を生じないものであるから、観念において比較することができないものである。

 してみれば、本件商標と引用商標とは、観念において比較できないとしても、外観において顕著に相違し、称呼において明瞭に聴別し得ることから、外観、称呼及び観念によって、取引者、需要者に与える印象、記憶、連想等を総合して全体的に考察すれば、両者は相紛れるおそれのない非類似の商標というべきである。

 なお、請求人は、本件商標の構成中、語尾の「険」の文字は、「保険」という役務の普通名称の「険」を意味し、捨象・略称可能である旨及び請求人及び被請求人が属する保険業界とその需要者の間では、「険」を省略することが常態化しているから、本件商標「スマ保険」の右端に置かれた「険」の文字が簡単に省略され需要者の記憶に残り難い旨を主張するが、本件商標は、同書同大等間隔で一体に表されており、その構成中「険」の文字のみが捨象されるべき特段の理由は見いだせないものである。また、請求人は、本件商標及び引用商標からは、いずれも「スマートフォンによる保険」又は「スマートな保険」の観念を生じる旨主張するが、「スマ」の文字が「スマートフォン」又は「スマート」の語の略称として一般に使用されている実情も見いだせない

 したがって、本件商標と引用商標は非類似の商標である。』

いずれも「スマホ」で保険を選ぶ時代であることを象徴するようなネーミングといえ、一見、紛らわしい印象を受けますが、特許庁は商標非類似と判断しました。「スマホ」対策はビジネスだけではなく、ネーミングにも絡んできます。