知財高裁:赤色靴底(レッドソール)の単色商標について、ルブタンの営業表示とは認めず

[Newsletter vol.171]

知財高裁は、クリスチャン・ルブタン(CHRISTIAN LOUBOUTIN)の女性用ハイヒールの定番デザイン「赤色の靴底(レッドソール)」に係る色商標(以下、本件商標)が、同社の営業や出所を表示するものとして機能を発揮しているかが争われた侵害訴訟及び審決取消訴訟において、いずれも、ルブタンの訴えを退ける判決を言い渡しました。

[令和4年(ネ)第10051号不正競争行為差止等請求控訴事件令和4年(行ケ)第10089号審決取消請求事件/第4部菅野裁判長]

不正競争行為差止等請求控訴事件 (判決言渡日:2022.12.26)

 フランス法人クリスチャン・ルブタン・エスアーエス(以下、ルブタン社)が、株式会社エイゾーコレクションの販売する赤色のゴム素材からなる女性用ハイヒール「EIZO」は、ルブタン社の女性用ハイヒールの定番デザイン「赤色の靴底(レッドソール)」を侵害するとして、不正競争防止法違反により、販売の中止及び損害賠償を求めた裁判で、原告の主張を退けた東京地裁の判決を不服として、ルブタン社は知財高裁に控訴しました。

 知財高裁は、以下のように述べ、本件商標の周知著名性は認められない、と判断しました。

  • 原告表示を付した高価格帯の女性用ハイヒールは数多くの著名人や芸能人に愛用され、日本でも、平成10年以降は路面店等のショップで販売が開始され、年間30億円を超える売り上げを誇り、数多くの雑誌、メディア等で原告表示は「レッドソール」として取り上げられ、一定の需要者には「靴底が赤い」女性用ハイヒールは「ルブタン」のブランドを指すものと認識されているといえる。しかし他方で、靴底が赤色の女性用ハイヒールは、原告商品以外にも少なからず我が国においては流通しており、女性用ハイヒールの靴底に赤色を付した商品形態を控訴人らが独占的に使用してきたとはいえない
  • アンケートは、東京都、大阪府、愛知県に居住し、特定のショッピングエリアでファッションテム又はグッズを購入し、ハイヒール靴を履く習慣のある20歳から50歳までの女性を対象としたものであるが、アンケート結果によると、靴底が赤いハイヒール靴を見たことがないものを含め、原告表示を「ルブタン」ブランドであると想起した回答者は、自由回答と選択式回答を補正した結果で51.6%程度にとどまる。この結果によれば、原告表示は、一定程度の需要者に商品出所を認識されているとはいえるが、それが著名なものに至っているとまでは評価することができないことから、原告表示が不正競争防止法2条1項2号に規定する「他人の著名な商品等表示」であるとはいえない。

拒絶審決取消請求事件 (判決言渡日:2023.1.31)

 クリスチャン・ルブタン氏は、『女性用ハイヒール靴の靴底部分に付した赤色(PANTONE 18-1663TP)で構成される』色商標を第25類「女性用ハイヒール」を指定商品として、平成27年4月1日に出願したところ(商願2015-29921)、特許庁は、本件商標は自他商品識別力を有しておらず、また、使用をされた結果、需要者が何人かの業務に係る商品であることを認識できるに至ったものと認めることはできないとして、登録を拒絶する審決を下したことから(不服2019-14379号審決)、ルブタン氏は、これを不服として、知財高裁に審決の取消を請求しました。

 知財高裁は、以下のように述べ、本件商標は使用による特別顕著性が認められない、と判断しました。

  • 自由選択の必要性等に基づく公益性の要請が特に強いと認められる、単一の色彩のみからなる商標が商標法3条2項の「使用をされた結果需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識することができるもの」に当たるというためには、当該商標が使用をされた結果、特定人による当該商標の独占使用を認めることが公益性の例外として認められる程度の高度の自他商品識別力等を獲得していること(独占適応性)を要するものと解するべきである。
  • 本願商標の色彩である「 赤色」は、古くから「パワーや生命力を表す色」として用いられているほか、衣類等のファッション分野で広く用いられてきた色である。また、以前から、靴底に赤色を付した女性用ハイヒール靴の写真が複数掲載されていたこと等からすると、本願商標の色彩及び色彩を付する位置は、いずれもありふれたもの、ないし普通のものであり、本願商標の構成に特異性は認められない
  • 原告商品は、「レッドソール」として取り上げられ、海外で芸術賞等を受賞するなどし 、靴底が赤いブランドの靴は原告ブランドであると言及するブログ等の投稿があることからすると、ラグジュアリーブランドに関心のある女性を中心にした一定の需要者には、「靴底が赤い」女性用ハイヒール靴は原告ブランドを指すものと認識されている
  • 我が国においては、靴底が赤色の女性用ハイヒールは、原告商品以外にも少なからず流通しており、女性用ハイヒールの靴底に赤色を付した商品形態を原告が独占的に使用してきたものと認めることはできない。
  • 本件アンケート結果によると、本願商標を原告ブランドであると想起した回答者は、自由回答と選択式回答を補正した結果で51.6%程度にとどまる。本件アンケートは、ファッション関係にそれなりに関心のある主要都市に居住し、特定エリアでファッションアイテム等を購入する女性を調査対象としたにもかかわらず、本願商標の認知度は半数程度にとどまっており、全国の需要者層にまで調査対象を広げると、本願商標の認知度はこれよりも下回ることは容易に推認されるところである。
  • 以上によれば、本件商標は公益性の例外として認められる程度の高度の自他商品識別力を獲得していると認められない
知財高裁は、単色商標に対する登録要件(使用による特別顕著性)について、『公益性の例外として認められる程度の高度の自他商品識別力等を獲得していること(独占適応性)を要する』として、“半数程度(51.6%)”では不十分と判断しました。
この判断は、とりわけ、単色商標における評価指標と考えられますが、商標の種類に応じて特別顕著性の評価指標が異なることを示唆する意味において、今回の判決は実務的にも重要と思われます。