[Newsletter vol.170]
2023年2月8日、米国ニューヨーク州南部連邦地裁の陪審裁判において、メイソン・ロスチャイルド氏が制作した非代替性トークン(NFT)化されたデジタル作品「MetaBirkin」は、芸術的表現物ではなく、このため、米国憲法修正第1条によって保護されず、高級ブランド・エルメス(Hermes)の商標権を侵害するとして、133,000ドルの損害賠償を認める評決が下されました。
本件裁判は、Web3.0やデジタル商品と高級ファッションブランドとの間で2021年8月に生じた商標に絡む紛争に関するものです。ロスチャイルド氏は、2021年にエルメスを代表する革製ハンドバッグをデジタル化した作品を非代替性トークン化して「MetaBirkin」の名称で販売しました。これに対し、エルメスは、2022年1月、バーキンバッグに似通った画像をNFT化する行為は商標権侵害に当たるとして、裁判所に訴えました。裁判において、エルメスは、NFT化した自社商品を販売する計画を明らかにし、将来的に競合する可能性を主張しました。一方、ロスチャイルド氏は、当該作品は米国憲法修正第1条によって保護される芸術的表現物に該当すると反論しました。
1月7日、ジェド・ラコフ判事は、陪審員に、エルメスの主張する商標権侵害が成立し、ロスチャイルド氏がその責任を負うことになるのか、また、侵害が成立するとした場合、表現の自由を保障する米国憲法修正第1条によって同氏の作品は保護されるか、協議するよう説示しました。判事は、ロスチャイルド氏による当該作品の制作が、本当に芸術的表現に由来するのか、それとも、むしろ、自他識別力が非常に強く、突出した価値を有するブランドを利用しようとする不当な意図によるものか、事実認定について争いあることを理由に挙げ、本件裁判を陪審審理としました。また、判事は、「MetaBirkin」のタイトルからは、NFTやデジタル画像に関連する意味合いが想起、認識されることも指摘しました。
本件は、デジタル資産の利用に関する法的評価の最初の裁判事例として、特に、ロスチャイルド氏がNFT化した作品が、商取引上の商品か、それとも、米国憲法修正第1条によって保護される芸術的表現に充当するか、どちらに属するのかが争点となりました。
エルメスは、NFT化された商品の需要者は、それに表示されたブランドとの関連性を信じて購買を決めることから、「MetaBirkin」の使用は、消費者に、エルメスとは関係のないバーチャル商品を間違って購入させかねないと主張しました。
今回の陪審員の評決は、高級ブランド品をデジタルで表現したものは、たとえ、それ自体、人の持ち物を運んだり、人の身体を覆うといったブランド品本来の機能を発揮しない場合でも、相当の価値が認められることを是認したものと捉えられます。本件においては、高級ブランドのハンドバッグの目的として、現実の世界であれ、メタバース空間であれ、文化的なステータスという側面を有することがより明らかになったものと言えます。