知財高裁:「ハートデンキサポート」と「HEART」は類似、「朔北カレー」と「サクホク」は非類似

[Newsletter vol.172]

知財高裁は、文字商標と文字の結合商標との類否が争われた2件の商標審決取消訴訟において、「ハートデンキサポート」と「HEART」は類似と判断する一方で、「朔北カレー」と「サクホク」は商標非類似との判断を下しました。

[知財高裁令和4年(行ケ)第10093号/第3部東海林裁判長、令和4年(行ケ)第10122号/第2部本多裁判長]

「ハートデンキサポート」vsHEART」、令和4(行ケ)10093号審決取消請求事件 (判決言渡20223.2.22)  

 特許庁が、先行登録第5973426号商標「HEART」(標準文字、第37類:電気設備工事他)と商願2020-14760号「ハートデンキサポート」(標準文字、第37類:電気設備設置工事他)は類似するとして、本願商標「ハートデンキサポート」の登録を拒絶した審決(不服2021-12334)は不当として、出願人が当該審決の取消を求めた裁判において、知的財産高等裁判所は、以下のように述べ、両商標は類似する、と判断しました。

  • 本願商標の構成中の「デンキサポート」という部分は、取引者、需要者に、電気器具や電力を使って運転する機械を含む電気に関する事柄を支え、支持し、支援し、助けることを意味すると理解される場合が少なくないものと認められ、実際に、電気及び電気工事に関する業界においては、「でんきサポート」又は「電気サポート」の語は、電気に関する工事、修理及びトラブル対応といったサービスを表す語として使用されていることから、一般人を含む取引者、需要者にも、上記サービスを表す語として認識し得る状態で使用されているものといえる。
  • そうすると、本願商標の構成中の「デンキサポート」という部分は、取引者、需要者により、電気に関する工事、修理及びトラブル対応といったサービスを表す語として認識されるものと認められ、電気に関する本願指定役務との関係において、自他役務識別標識としての機能がないか、又は希薄な部分と認識されるものと認められる
  • 「ハート」という語が、我が国において親しまれた片仮名語であり、広く使用されているとしても、本願商標の構成中の「ハート」の部分は、本願商標の指定役務の内容、質等とは関係がなく、本願の指定役務との関係で、自他役務識別標識としての機能を発揮するものと認められるから、原告の主張は採用することができない。
  • 文字種の相違及び「デンキサポート」という部分の有無による本願商標と引用商標の外観における差異は、称呼及び観念の共通性を凌駕するものではなく本願商標と引用商標は、外観、観念、称呼等によって取引者、需要者に与える印象、記憶、連想等を総合して全体的に考察すると、類似するものと認められる

「朔北カレー」vs「サクホク」、令和4(行ケ)10122号審決取消請求事件 (判決言渡2023.3.9)

 特許庁が、先行登録第5787174号商標「サクホク」(標準文字、第29類:カレーのもと,レトルトパウチされたカレー他)と商願2020-20177号「朔北カレー」(第29類:カレーのもと,即席カレー他)は類似するとして、本願商標「朔北カレー」の登録を拒絶した審決(不服2021-16353)は不当として、出願人が当該審決の取消を求めた裁判において、知的財産高等裁判所は、以下のように述べ、両商標は類似しない、と判断しました。

  • 本願商標は「朔北」と「カレー」からなる結合商標であるところ、「カレー」の部分から出所識別標識としての称呼、観念が生じるということはできない一方で、「朔北」については、需要者、取引者をして、「北の方角」又は「北方の地」を表す単語として理解されるにすぎず、具体的な地域を表すものと理解されるものではないから、指定商品との関係において、出所識別標識としての称呼、観念が生じ得るといえる。そして、需要者、取引者をして、「朔北カレー」を一連一体のものとしてのみ使用しているというような取引の実情は認められない。
  • そうすると、本願商標について、各構成部分がそれを分離して観察することが取引上不自然であると思われるほど不可分的に結合しているものと認められないから、「朔北」の部分のみを抽出して他人の商標と比較して商標の類否を判断することも許されるというべきである。
  • 本願要部からは「北の方角」「北方の地」の観念を生じるものであるのに対し、「サクホク」は、辞書等に掲載されていない造語であって、特定の観念を生じないものであるから、観念が明らかに異なる。
  • 本願要部と引用商標は、称呼が共通するものの、外観及び観念は明確に異なっているところ、需要者、取引者が「朔北」から引用商標である「サクホク」や引用商標の権利者を想起するというような取引の実情はなく、また、本願商標及び引用商標の指定商品において、需要者、取引者が、専ら商品の称呼のみによって商品を識別し、商品の出所を判別するような実情があるものとは認められず、称呼による識別性が、外観及び観念による識別性を上回るとはいえないから、本願商標及び引用商標が同一又は類似の商品に使用された場合に、商品の出所につき誤認混同を生ずるおそれがあるとはいえない。そうすると、本願商標が引用商標に類似するとはいえない

いずれも、後願商標の構成中、識別力を有する文字部分が、先行登録に係る文字商標と称呼同一の事案において商標の類否が争われた事案ですが、識別力を有する文字同士の外観及び観念の評価によって、結論が異なりました。外観上、欧文字とカタカナの違いは低め、漢字とカタカナの違いは高めに評価されており、個人的には、文字商標における外観の差異を、称呼・観念と同等に扱うのは、必ずしも適当ではないように思います。本件は、識別力を有する文字から生ずる観念の相違によって結論が分かれた事案といえます。そう捉えますと、表意文字である漢字は、その語の観念によって、商標の類似範囲を広げることにも、狭くすることにもなり、商標の採択及び登録に際し、どの文字種別を選ぶことが最も広い権利範囲につながるのか、また、文字同士の結合商標の類否判断を知る意味において、参考となる判決といえます。