特許庁:向きや角度を変えてもプーマの著名なフォームストライプと出所混同のおそれあり

[Newsletter vol. 155]

 特許庁は、令和4年6月21日、登録第6269999号図形商標(以下、本件商標)が、ドイツ法人PUMA SEが1958年から同社のスポーツシューズの側面に使用しているフォームストライプ図形との間で、出所混同のおそれが認められるかが争われた商標異議申立事件において、弊所が代理人を務めるプーマ社の主張を認め、商標法第4条第1項第15号により、本件商標の登録を取り消す決定を下しました。
[異議2020-900248号決定]


本件商標

 米国法人STRATO TRADING GROUP, INC.は、2019年7月29日、下右掲の構成からなる図形商標を第25類「履物及び運動用特殊靴,帽子,ズボン及びパンツ,ボトムス,ジャケット,トップス,ワイシャツ類及びシャツ,ブラウス」を指定商品として、特許庁に出願しました(商願2019-102730)。特許庁は、2020年7月15日、本件商標の商標を認め、8月4日に商標公報に掲載されました。


PUMAフォームストライプ図形

 ドイツ法人PUMA SE(以下、プーマ社)は、1958年に、幅の広い底辺から右上に向かって緩やかにカーブしつつ伸び上がり、徐々に細長くなっていく特徴的な図形を基調とする上左掲の「フォームストライプ」を同社のサッカーシューズに導入して以来、様々なスポーツシューズにフォームストライプを長年にわたり使用しており、ファームストライプの特徴を残しつつ、流線デザインにバリエーションを持たせた態様の図形商標(以下、引用商標)を複数登録しています。


異議申立

 プーマ社は、弊所を代理人として、2020年10月1日、本件商標に対して異議申立を行い、フォームストライプを付したPUMAスポーツシューズの国内売上は毎年150円を超え、4%前後の市場占有率を有しており、スポーツシューズ等において周知著名性を獲得しているところ、フォームストライプは、常に幅の広い底辺が左下に描かれているわけではなく、反転したものや、いろいろな向き(角度)や大きさ、バリエーションにより表示されたものが取引に供され、需要者は、これらを引用商標と認識して購入していることから、引用商標の図形の向きは、引用商標の出所機能を特徴付けるものではない。いずれも、幅の広い底辺から対角線方向に向かって緩やかにカーブしつつ伸び上がり、徐々に細長くなっていく基本的構成において共通しており、本件商標を180度回転したものは、外観上、引用商標と極めて高い類似性が認められるため、商標全体の類似性の程度は、総じて低くはない。図形には絶対的な上下の決まりがあるわけではなく、本件商標は、その向きにおいて特定の観念が生じるものではないことからすると、図形の向きを変えることで需要者が周知著名商標を想起、連想する場合には、両商標を誤認する可能性は高い。したがって、本件商標に接する需要者は、プーマ社のフォームストライプとの間で混同を生ずるおそれがある、と主張しました。


特許庁の取消決定

 特許庁は、以下のように述べ、本件商標が指定商品に使用された場合、需要者は、引用商標を連想、想起して、プーマ社の業務に係る商品であるかのように、出所について混同のを生ずるおそれがある、と結論付けました。

  1. 申立人関連会社の業務に係るスポーツ用品の国内の売上高、出荷額及び市場占有率をも考慮すれば、引用商標は、本件商標の登録出願時及び登録査定時において、申立人の業務に係るスポーツシューズを表すものとして、取引者、需要者の間に広く認識されていたものと判断するのが相当である
  2. 引用商標は、いずれも、幅の広い底辺から右上に向かって緩やかにカーブしつつ伸び上がり、徐々に細長くなっていく特徴的な図形からなるものであるから、その独創性は高いものといえる。
  3. 本件商標は、幅の広い上辺から左下に向かって緩やかにカーブしつつ伸び下がり、徐々に細長くなっていき、その末端部がやや湾曲した図形からなるものである。そうすると、引用商標とは、細い末端部においてやや湾曲しているなと子細にみれば、相違点を有するものの、いずれも、広い幅から緩やかにカーブしつつ徐々に細長くなっていく構成において共通し、本件商標は引用商標を反転したものであるかのごとき印象を与える場合も少ないないものといえることからすれば、その類似性の程度は高いといえる。
  4. 本件商標の指定商品と申立人の業務に係る商品は、商品としての関連性を有し、その取引者、需要者も共通する。また、本件商標の指定商品の需要者は、一般の消費者であることからすれば、これを購入するに際して払われる注意力は必ずしも高いとはいえない。そして、スポーツ用品及びファッション業界においては、しばしば商標がワンポイントマークとして小さく用いられる上、商標の位置や向き等を変えた様々なパターンの商標を商品に付して使用している実状が伺えることからすれば、取引に際して、商標の構成を子細に確認できない場合があるといえ、外観において相紛れる可能性が高くなるものといえる。
  5. これら取引の実情を総合的に考慮すると、本件商標は、これをその指定商品に使用した場合には、これに接する取引者、需要者は、引用商標を連想、想起して、当該商品が申立人又は申立人と経済的若しくは組織的に何らかの関係を有する者の業務に係る商品であるかのように、商品の出所について混同を生ずるおそれがあるものというべきである。
  6. したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第15号に該当する。