知財高裁:「Julius Tart」、「JULIUS TART OPTICAL」と「TART」は商標非類似

[Newsletter vol.176]

 知財高裁は、令和5年4月25日、文字商標と文字の結合商標との類否が争われた商標審決取消訴訟において、「Julius Tart」と「TART」、「JULIUS TART OPTICAL」と「TART」は、いずれも商標非類似との判断を下しました。

[知財高裁令和4年(行ケ)第10120号、令和4年(行ケ)第10121号/第4部菅野裁判長]

 特許庁が、原告所有に係る先行登録第5427549号商標「TART」(標準文字、第9類:眼鏡,眼鏡の部品及び附属品。以下、「引用商標」)と、被告所有に係る①登録第5918891号商標「Julius Tart」(標準文字、第9類:眼鏡用つる,眼鏡用レンズ,眼鏡の部品及び附属品,サングラス,眼鏡。以下、「本件商標1」)、及び、②登録第5894128号商標「JULIUS TART OPTICAL」(標準文字、第9類:眼鏡用つる,眼鏡用レンズ,眼鏡の部品及び附属品,サングラス,眼鏡。以下、「本件商標2」)は類似せず、出所混同のおそれもないとして、本件商標1及び2の登録は有効との審決(無効2021-890058、無効2021-890057)を下したため、これを不服として、引用商標権者である原告が当該審決の取消を求めた裁判において、知的財産高等裁判所は、以下のように述べ、両商標は類似しない、と判断しました。


複数の構成部分を組み合わせた結合商標については、その構成部分全体によって他人の商標と識別されるから、その構成部分の一部を抽出し、この部分だけを他人の商標と比較して商標の類否を判断することは原則として許されないが、取引の実際においては、商標の各構成部分がそれを分離して観察することが取引上不自然と思われるほど不可分的に結合しているものと認められない商標は、必ずしも常に構成部分全体によって称呼、観念されるとは限らず、その構成部分の一部だけによって称呼、観念されることがあることに鑑みると、商標の構成部分の一部が取引者、需要者に対し商品又は役務の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものと認められる場合や、それ以外の部分から出所識別標識としての称呼、観念が生じないと認められる場合などには、商標の構成部分の一部を要部として取り出し、これと他人の商標とを比較して商標そのものの類否を判断することも、許されると解するのが相当である。

•本件商標1の構成中「Julius」と「Tart」、本件商標2の構成中「JULIUS」、「TART」、「OPTICAL」の単語の間には、それぞれ空白部分があるが、それぞれの文字は同書同大で、「Tart」又は「TART」の文字部分は強調されていないのみならず、引用商標は、本件商標の指定商品である「眼鏡フレーム」等との関係で周知な商標であるとはいえないから、本件商標の構成のうち「Tart」又は「TART」が取引者及び需要者に商品等の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものではない。また、「OPTICAL」は、「目の」、「光学上の」と訳されるが、一般になじみのある英語であるとまではいえないから、指定商品との関係で識別力がないとまではいえない。むしろ、本件商標1は「Julius Tart」の欧文字(標準文字)を、本件商標2は「JULIUS TART OPTICAL」の欧文字(標準文字)を、同書同大でまとまりよく一体的に構成されているものであり、「ジュリアス タート」、「ジュリアス タート オプティカル」とよどみなく称呼することが可能である。したがって、「Tart」又は「TART」を要部として抽出することはできず、本件商標は一体不可分の構成の商標としてみるのが相当である。

•我が国の取引者や需要者を対象にして考えると、「Julius Tart」が欧米人の名前であると想起するとは必ずしも認め難い上、ファーストネームである「Julius」には注意が惹かれないとも認め難い

•原告は、被告が本件商標中の「Tart」の部分を強調して被告商品の広告及び宣伝をしている事実を挙げて、「Tart」が要部であることを示している旨主張するが、そもそも被告のウェブページでは「TART」の文字部分を強調した構成で表記されていないし、この点を措くとしても、商標の構成を離れて実際の商品の宣伝広告の方法から要部を認定すべきとする原告の主張は当を得たものではなく、本件において、仮に被告が「TART」(ないし「Tart」)の文字部分を強調した宣伝等を行っていたとしても、前記認定を左右するものではない

•本件商標と引用商標は、外観において構成する文字数が明らかに異なり、称呼においても構成音、構成音数が明らかに異なるものであるから、外観及び称呼において相紛れるおそれはなく、また、両商標は、特定の観念を生じさせるものではないから、観念において比較することができない。そうすると、本件商標と引用商標は、明確に区別することができる商標であり、類似性は低いといえる。以上によれば、本件商標と引用商標は、外観及び称呼において明瞭に区別することができ、非類似の商標であるといえるから、両商標の指定商品が同一又は類似するものであるとしても、本件商標は、商標法4条1項11号に該当するものとはいえない。

•本件商標と引用商標は、明確に区別することができる商標であり、類似性は低く、また、引用商標「TART」を付した眼鏡フレームは、取引者及び需要者の間で原告らの業務に係る商品を表示するものとして広く認識されていたものとはいえない。そうすると、原告商品は眼鏡フレームであり、本件商標の指定商品はこれを含むものであって、需要者及び取引者が共通しているものの、本件商標が指定商品に使用された場合、需要者及び取引者において、本件商標から引用商標を連想し、原告の業務に係る商品、又は原告と経済的若しくは組織的に何らかの関係を有する者の業務に係る商品であると認識するものとは認め難いから、その商品の出所の混同を生じるおそれがあるものと認めることはできない。したがって、本件商標は、商標法4115号に該当するものではない

知財高裁の判断は、結合商標の類否に関する最高裁判決に即しており、結論としては妥当と思われますが、結合商標の要部の認定において、登録商標の態様から判断し、実際の使用態様を考慮しないとした裁判所の認定には、疑問を感じます。