特許庁:トンボ鉛筆のロングセラー鉛筆「8900」の緑色について、出所表示機能を認めず

[Newsletter vol. 161]

 特許庁は、令和4年9月9日、株式会社トンボ鉛筆が1945年から販売している事務・学習用鉛筆「8900」の本体に使用している色の出所表示機能が争われた拒絶査定不服審判において、商標法第3条第1項第3号に該当し、かつ、商標法第3条第2項の要件を具備しないとして、本願商標の登録を拒絶する審決を下しました。[不服2021-003680号審決]


本願商標

 株式会社トンボ鉛筆は、2018年4月18日、下掲の色商標(単色)を、第16類指定商品「鉛筆(色鉛筆を除く。)」において特許庁に出願しました(商願2018-49709)。商標の詳細な説明には『色彩のみからなる商標であり、鉛筆の軸部分を「DICカラーガイド フランスの伝統色第5版 F288」とする構成からなる。色彩のみの記載は、当該色彩を明示したものである。白線及び 灰色着色部分は、商品の形状の一例を示したものであり、商標を構成する要素ではない。』と記載されています。

 本願商標は、出願人が1945年から発売している事務・学習用鉛筆「8900」の商品本体に施されたオリーブグリーン(単色)で、黄色いダース箱とオリーブグリーンの鉛筆軸のデザインは、1948年からほとんど変わらず、70年以上経った今も使用されています。


拒絶査定

 審査官は、本願商標は、色彩のみからなる商標であり、本願商標の指定商品を取り扱う業界において、商品の魅力向上等のため、本願商標の緑色と同系色の色彩が使用されている実情が認められることからすると、本願商標をその指定商品に使用しても、これに接する取引者、需要者は、商品又は商品の包装に通常使用される又は使用され得る色彩を表したものと認識するにとどまるから、商標法第3条第1項第3号に該当し、同条第2項の要件を具備しないとして、2020年12月21日、拒絶査定しました。


拒絶査定不服審判

 出願人は、2021年3月22日、拒絶査定不服審判を請求し、本願緑色を付した鉛筆は、PP袋パックやバラ売りでも販売され、常に黄色の箱と共に使用されているわけではなく、SNSや雑誌等では箱の黄色と結び付けられることなく、本願緑色の色彩のみをもって、専ら出願人の業務にかかる商品と認識されている。また、本願緑色は本件商品の六角軸全面に付されており、六角軸の一面のみにごく小さく表示されている「Tombow」の文字や「トンボ」の図形以上に需要者の目に付き易く、強い印象を与えることから、本件商品の軸色を目印にどのメーカーの商品であるかを確認した上で購入する場合も多い。さらに、他社が販売する緑色系の鉛筆とは色彩が異なっており、容易に見分けられる、と主張しました。


特許庁の判断

1.商標法第3条第1項第3号該当性

 特許庁は、『商品の色彩は、古来存在し、通常は商品のイメージや美感を高めるために適宜選択されるものであり、また、商品の色彩には自然発生的な色彩や商品の機能を確保するために必要とされるものもある』、『本願商標の指定商品である「鉛筆(色鉛筆を除く。)」を取り扱う業界において、商品のイメージや美感を高めるために色彩が使用されている実情があることが認められ、鉛筆の本体軸部分に本願緑色と近似する色彩が一般に用いられている事実がある。』ことを踏まえ、本願商標は商標法第3条第1項第3号に該当すると判断しました。

2.商標法第3条第2項(使用による特別顕著性)

 国内における本件商品の1999年から2018年の合計販売数量は200百万本以上であり、市場占有率は2009年度の22.8%と2017年度の32.2%の間で推移しており、業界順位としては第2位であるものの、本願指定商品を取り扱う業界において、本願緑色と近似する色彩が鉛筆の本体(軸部分)に使用されている実情があること、本件商品やPP袋、バラ売り用に陳列する什器や広告等には、本願緑色とともに、出願人のコーポレートマークである「トンボ」図形や名称を表す「Tombow (TOMBOW)」の文字及び「8900」の文字が表示されていることを踏まえ、特許庁は、『本件商品や宣伝広告への使用により、本願緑色のみが独立した識別標識として認識され、その機能を果たしているものとは認められない。』と認定しました。

 また、全国から無作為に抽出された500店の文具店を対象とし、その文房具店で売れている鉛筆の上位2社を記入するアンケート調査結果については、『アンケート調査に回答した一部の文房具店において販売数の多い鉛筆を取り扱っている店が挙げられているにすぎず、これをもって、本件商品についての需要者の認識を推し量ることはできないから、本願緑色が、本件商品の出所識別標識として、需要者の間に広く認識されているとはいえない。』と述べ、『本願緑色は、輪郭のない単一の色彩であり、これと近似する色彩を出願人以外の者が使用している実情があることからすれば、色彩の自由な使用を不当に制限することを避けるという公益にも配慮すべきである。』として、需要者が何人かの業務に係る商品であることを認識できるに至っていると認められない、と判断しました。