[Newsletter vol. 153]
2022年5月18日、米国ニューヨーク州南部連邦地方裁判所は、世界的な高級ファッションブランド・エルメス(Hermes)と、メイソン・ロスチャイルド(Mason Rothschild)と名乗るアーティストとの間で争われた、非代替性トークン(NFT)化されたアート作品「MetaBirkins」(メタバーキン)の使用に関する裁判において、NFTが絡む商標事案に対する初の司法判断を下しました。
エルメスは、今年1月14日、同社のバーキンバッグが毛皮で製作されたかのように描かれ、NFT(Non Fungible Token:非代替性トークン)化されたデジタルイメージに「MetaBirkins」の名称を付して制作、販売したロスチャイルド氏を相手に、ニューヨーク州南部連邦地方裁判所に提訴しました。
ロスチャイルド氏は、「MetaBirkins」以外にもNFT化されたアート作品をSNSやネット上で販売していました。エルメスは、NFT化されたMetaBirkinsの販売によって、エルメスのバーキン(Birkin)の商標が侵害、汚染され、当該作品が恰もエルメスの許諾を得たデジタル商品であるかのように出所について誤認が生じることで、エルメスの名声が毀損されたと主張しました。また、ロスチャイルド氏が、当該作品を展示するウェブサイトのドメイン名に「metabirkins.com」を用いる行為は、ドメインの不法占拠に該当する、と主張しました。
本件裁判の主たる争点は、NFT化されたMetaBirkins作品が、(1)著作物に該当(NFT化は、デジタルアート作品の持ち主を証明するのみ) するか(その場合、商標権の効力は、米国憲法修正第1条によって保護される表現の自由との均衡を図るRogersテストにより評価)、それとも、(2)著作物にはいえず、商売上の商品に該当するか(この場合、第2連邦巡回裁判所が定めた出所混同の恐れに関するPolaroidテストが適用)、となりました。
裁判所は、ロスチャイルド氏のMetaBirkinsについて、芸術表現の一形態を構成するデジタルイメージになり得ると認定した上で、当該イメージは米国憲法修正第1条において保護されることから、Rogerテストを用いて評価されるべき、との見解を示しました。
しかしながら、裁判所は、ロスチャイルド氏による「MetaBirkinds」の使用について、作品との芸術的関連性が認められず、また、仮に、ある程度の関連性を有するとしても、『デジタル商品として、現実世界におけるバーキンバッグの同じような錯覚を引き起こす。』との同氏の取材時の発言を引用し、当該作品の出所や内容について、明らかに誤認を招くおそれがあることをエルメスは十分立証したとして、ロスチャイルド氏の棄却申し立てを退けました。
今回の決定において、裁判所は、『NFTの対象がバーチャルに身に付けることができるバーキンバッグのデジタルファイルの場合、「MetaBirkins」は、商売上の商品商標に該当する』ため、NFT化されたアート作品とは評価されない、との見解を示しており、ロスチャイルド氏の活動の営業的側面に注目し、メタバースや仮想現実におけるバーチャル商品の将来的な販売の可能性を見据えたものと言えます。