特許庁:パロディー商標異議事件/「OCOSITE」は「LACOSTE」と出所混同のおそれあり

[Newsletter vol. 148]

 特許庁は、令和4年2月18日、「ワニ」のロゴマークでお馴染みの「LACOSTE」のワニ図形をひっくり返し、『起こして(OCOSITE)』ともがくパロディ商標が、ラコステと出所混同のおそれを生じるかが争われた異議申立において、ラコステの主張を認め、パロディ商標の登録を取り消す決定を下しました。

[異議2020-900312号決定]

本件商標

 ラコステが問題としたパロディ商標は、横向きの「ワニ」が仰向けに描かれた図形の下に、「OCOSITE」の文字を反転させたとおぼしき文字を配した構成からなり、2020年3月17日、第25類「被服,履物,運動用特殊衣服,運動用特殊靴,帽子」等を指定商品として、大阪の個人によって出願され、特許庁において、同年9月9日に登録されました(商標登録第6289888号)。


引用商標

 テニスプレーヤーのルネ・ラコステ氏によって1933年に設立されたフランスのファッションデザイン会社ラコステは、2020年11月27日、本件商標の登録に対して異議を申し立て、以下のように述べ、本件商標に接した需要者は、申立人と経済的又は組織的に何らかの関係がある者の業務に係る商品であると誤認し、その商品の需要者が商品の出所について混同するおそれがある、と主張しました。

  • 世界114か国に1,230の直営店を展開し、国内の販売店は、東京、名古屋など主要都市の直営店及び全国各地の百貨店内の販売店等を合わせると、130店舗にのぼる。世界総売上高は、2011年に約1,700億円、2012年に約1,900億円。我が国における売上高は世界総売上高の約5%であり、2016年には120億円超、2017年は132億円超、2018年は140億円、2019年は149億円。売上高の約80%がポロシャツ等の衣類であり、約11~13%がスニーカー等の靴類。
  • 本件商標は、引用商標のワニの図形と外観上酷似するものであり、デッドコピーに近いものであって、「ラコステのワニ」という観念及び称呼が生じる点でも共通する。また、「LACOSTE」のフォントに似せた「OCOSITE」の文字から、「起こして」の意味合いが想起されることとあいまって、本件商標からは「『起こして』と、もがくラコステのワニ」程の観念をも生じる。したがって、本件商標と引用商標の類似性の程度は極めて高い。
  • 申立人は、これまで数多くのキャンペーンや他社とのコラボレーションを通じて、引用商標の「ワニ」をアレンジしたものや、様々な角度を向いた「ワニ」のロゴ等を使用しており、需要者の間で「ラコステの限定ロゴ」として人気を集めている。かかる事情から、本件商標も同様に、申立人から何らかの許諾を受けてアレンジされた「限定ロゴ」と誤認される可能性が高い。

特許庁の判断

 特許庁審判官は、以下のように述べ、本件商標をその指定商品に使用する場合、これに接する需要者は引用商標を連想、想起し、当該商品が申立人又は同人と経済的、組織的に何らかの関係を有する者の業務に係る商品であるかのごとく、その出所について混同を生じるおそれがある(商標法第4条第1項第15号)と結論付けました。

  1. 引用商標は、本件商標の登録出願時には、申立人の業務に係る商品を表示する商標として、我が国の取引者、需要者の間において、広く認識され、その状態は本件商標の登録査定時においても継続していたものと認められる。
  2. 引用商標は、図形部分と文字部分とは、それぞれに重なり合うことなく、各部分が独立した態様で配置されていることから、両者は視覚上分離して認識されるものであり、また、これらが一体となって特定の観念や称呼を生ずるものでもなく、さらに、図形部分と文字部分とを常に一体不可分のものとしてのみ把握しなければならない特段の事由もないから、両者は分離して把握されるものであり、図形部分及び「LACOSTE」の文字が、申立人商品との関係において、商品の品質等を表示するものである等、当該図形部分及び「LACOSTE」の文字が殊更に、自他商品の識別標識としての機能を有さないと判断するべき特段の事由はないから、当該図形部分及び「LACOSTE」の文字は、これらが独立して自他商品の識別標識としての機能を有するものである。
  3. 本件図形部分と引用商標の図形部分とを比較してみれば、両者の類似性の程度は相当程度高いものというべきである。
  4. 引用商標の図形部分は、「ワニ」を写実的に表したものではなく、イラストとしてユーモラスなイメージを想起させるものであり、その独創性は高いといえる。 5.引用商標は、申立人の業務に係る商品を表示する商標として、我が国の取引者、需要者の間において、広く認識され、独創性が高いこと、本件商標と引用商標との類似性の程度は相当程度高いこと、本件商標の指定商品と申立人商品は同一のものであり、取引者、需要者を共通にする
申立人が本件商標の図形と文字部分から生じる観念を一体的に捉えたのに対し、特許庁は、分離観察できると認定し、文字部分を類否の対象から除外しており、たとえ、悪ふざけで『起こして』がラコステなわけがない、と感じるのが一般論だとしても、有名商標の保護を図る観点からは極めて妥当と思われ、商標実務家としては、この判断手法を支持します。