[日本]知財高裁:「hihachi」と「HITACHI」の類似性の程度は高く、出所混同のおそれあり

[Newsletter vol. 146]

 知的財産高等裁判所は、令和4年1月27日、業務用暖冷房装置等における「hihachi」の文字商標の使用が、「HITACHI」で有名な株式会社日立製作所の業務に係る商品と混同を生ずる恐れがあるか(商標法第4条第1項第15号該当性)が争われた裁判で、本件商標「hihachi」と引用商標「HITACHI」の類似性の程度は相当程度高い、として同号により本件商標の登録を取り消した特許庁の判断を支持する判決を言い渡しました。[令和3年(行ケ)第10092号 商標登録取消決定取消請求事件、第3部:東海林裁判長]


本件商標「hihachi

 原告(有限会社B.BRUTE)は、第11類「業務用暖冷房装置,家庭用電気火鉢,家庭用電熱用品類,家庭用加熱器(電気式のものを除く。),家庭用調理台,家庭用流し台,火鉢,ストーブ類(電気式のものを除く。)」を指定商品として、標準文字からなる欧文字「hihachi」を令和2年2月25日に出願したところ(商願2020-020112。以下、本件商標)、特許庁は、同年8月14日に本件商標を登録しました(登録第6280832号)。


日立製作所による異議申立

 これに対し、日立製作所が、本件商標は「HITACHI」との関係において、他人の業務に係る商品と混同を生ずるおそれがあり、商標法第4条第1項第15号に該当するとして、令和2年10月29日、本件商標に対して異議を申し立てたところ、特許庁は、令和3年6月23日、日立製作所の主張を認め、同号により本件商標の登録を取り消す決定をしたことから、これを不服として、原告は、同年8月6日、取消決定の取消しを求める裁判を提起しました。


両当事者の主張

 裁判において、原告は、引用商標「HITACHI」の周知著名性の程度が極めて高いことは認めつつも、『本件商標と引用商標とは類似しておらず,本件商標は日立製作所の業務に係る商品と混同を生ずるおそれがある商標ではない』等と主張しました。 

一方、被告(特許庁長官)及び被告補助参加人(日立製作所)は、『6文字を共通にし,異なるのは中間における「h」の文字及び「T」の文字のみであるから,外観において近似した印象を与える』、『本件商標から生じる「ヒハチ」の称呼及び引用商標から生じる「ヒタチ」の称呼は,いずれも3音からなるものであり,3音中,比較的印象に残りやすい語頭の「ヒ」の音及び語尾の「チ」の音を共通にし,異なるところは,中間における「ハ」の音と「タ」の音との差異のみ』、『商標の使用においては,商標の構成文字を同一の称呼が生じる範囲内で文字種を相互に変換して表記したり,デザイン化したりすることが一般的に行われている。』と反論しました。


知財高裁の判断

 知財高裁は、以下のように述べ、『両商標の類似性の程度は、相当程度高い』と判断しました。

  1. 本件商標及び引用商標は,いずれも標準文字で表された7文字のアルファベットからなるものであるところ,「h」と「T」とで異なる3文字目を除いては,同じアルファベットが同じ順序でつづられており,使用されている文字及びそのつづりが近似している。本件商標及び引用商標に係る需要者には注意力がそれほど高くない一般消費者が含まれることを前提に検討すると,両商標は,いずれも標準文字で表されたものであるから,その外形自体が外観における印象として強く記憶に残るものではないことに加え,アルファベットからなる商標の使用においては,その構成文字について,大文字と小文字とを相互に変換して表記することが一般に行われていることからすれば,両商標に接した需要者は,「hihachi」又は「HITACHI」という文字が表されているという程度の印象を受けるのみであって,アルファベットが大文字であるか小文字であるかの違いをそれほど強く印象付けられるものではない。そして,本件商標及び引用商標において使用されている文字及びそのつづりが近似していることなどからすれば,両商標の外観は,大文字表記と小文字表記という違いがあることを考慮しても,互いに相紛らわしいものである。
  2. 本件商標からは「ヒハチ」との称呼が生じ,引用商標からは「ヒタチ」との称呼が生じるところ,これらはいずれも3音からなるものである上,比較的印象に残りやすいといえる語頭の「ヒ」の音及び語尾の「チ」の音が共通する。そして,異なる部分である2音目の「ハ」の音及び「タ」の音は,いずれも母音を「a」とする点で共通する上,通常はそれほど強く発音されない2音目であることからすれば,本件商標及び引用商標の称呼を明確に区別することが困難な場合もある。以上の事情を考慮すると,本件商標及び引用商標の称呼は,互いに相紛らわしいものである。
  3. 本件商標及び引用商標は,観念において類似するものではない。
  4. 本件商標及び引用商標に係る需要者には一般消費者が含まれるものであるところ,一般消費者が通常有する注意力を踏まえると,外観及び称呼が互いに相紛らわしい両商標を取り違えることは十分にあり得るといえることからすれば,両商標の類似性の程度は,相当程度高いというべき。
商標法4条1項15号に関する最近の事例に照らしてみますと、本件裁判における商標の類否判断には、かなり違和感を感じますが、周知著名商標の保護の観点より、商標の類否に関して、周知著名商標が絡む事案と、そうでない事案とは切り分けて考える必要性を裁判所が示唆しているように思え、今後、有名文字商標との類似性、出所混同のおそれの判断にどのような影響を及ぼすのか、実務的には大変気になる判決といえます。