特許庁:「DIORLV」と「zovladior」、クリスチャンディオールと相紛らわしいのは?

[Newsletter vol.145]

 フランスの著名なファッションデザイナー「Christian Dior」(クリスチャンディオール)を指称する商標「Dior」と、第三者の出願に係る商標「DIORLV」及び「zovladior」との出所混同のおそれが争われた商標異議申立事件において、特許庁は、ファッション関連分野における「Dior」の著名性を認めつつも、以下のように述べ、異なる判断を下しました。


DiorvsDIORLV

 本件商標の構成文字は、辞書等に載録されている語ではなく、特定の意味合いを有するものとして認識されているというような事情も見いだせず、一種の造語として認識される。また、本件商標は、その構成文字に相応して「ディオールブ」の称呼を生ずるというのが相当であり、冗長ではなく、よどみなく一連に称呼し得る。本件商標のかかる構成において、その構成中の「DIOR」の文字部分のみを分離、抽出して観察しなければならない格別の理由は存しない。してみれば、本件商標は、その構成中の「DIOR」の文字部分のみが独立して看者に印象づけられるものではないから、その構成文字全体に相応して「ディオールブ」の称呼を生じ、特定の観念を生じない。

 本件商標と、「Dior」の文字よりなる引用商標とは、構成文字数、「LV」の文字の有無等により、外観において、判然と区別し得る。称呼についてみるに、本件商標から生じる「ディオールブ」の称呼と引用商標から生じる「ディオール」の称呼とは、「ディオール」の音を同じくするとしても、構成音数が異なることに加え、語尾における「ブ」の音の有無という明らかな差異を有するものであるから、称呼において、明瞭に聴別し得る。さらに、本件商標は、特定の観念を生じないものであるから、「申立人に係るファッション関連商品のブランド」の観念を生じる引用商標とは、観念において相紛れるおそれはない。してみれば、本件商標と引用商標とは、外観、称呼及び観念のいずれの点からみても、相紛れるおそれのない別異の商標というべきである。

 引用商標は、本件商標の登録出願時及び登録査定時において、申立人の業務に係る商品を表示するものとして、我が国又は外国の需要者の間に広く認識されていたといえるものであり、本件商標の第25類指定商品「外衣,履物,帽子,スカーフ,ベルト,スカート」他と引用商標に係る商品が関連性を有し、需要者を共通にするものであるとしても、本件商標は、何より引用商標とは、外観、称呼及び観念のいずれの点からみても、相紛れるおそれのない別異の商標というべきものである。

 そうすると、本件商標権者が、本件商標をその指定商品について使用しても、取引者、需要者が、申立人若しくは引用商標を連想又は想起することはなく、その商品が申立人又は同人と経済的若しくは組織的に何らかの関係を有する者の業務に係るものであるかのように、その商品の出所について混同を生ずるおそれはない

[異議2020-900352、審決日:2021年10月11日]


Diorvszovladior

 本件商標はその構成中,後半の「dior」の文字が申立人商標「Dior」とつづりを同じくするものであって,全体の9文字のうち4文字までを申立人商標と共通にするものであるから,両商標はある程度の類似性を有する

 本件商標の指定商品中,第3類「化粧品,香料,薫料」及び第9類「眼鏡,読書用眼鏡,偏光眼鏡,サングラス」と申立人商品「化粧品,香水,サングラス」とは同一又は類似すると認められる商品であり,また,他の指定商品には,美容や美肌に係るものであって「化粧品」と用途及び目的を共通にするものが少なくないから,両商品の関連性は高いかある程度の関連性があり,取引者,需要者層が共通する。

 本件商標と申立人商標とはある程度の類似性を有するものであること,申立人商標は周知性の程度が極めて高く,かつ,独創性の程度が高いものであること,本件商標の指定商品と申立人商品の関連性の程度が高いかある程度の関連性があること,取引者,需要者層も共通すること,さらに,申立人商標がハウスマークであることから,本件商標の指定商品の取引者及び需要者において普通に払われる注意力を基準として総合的に判断すれば,本件商標は,看者をして,その構成中,後半の「dior」の文字に着目し,申立人商標を連想又は想起させることが少なくないものと判断するのが相当である。

 そうすると,本件商標は,商標権者がこれをその指定商品について使用するときは,取引者,需要者をして周知著名となっている申立人商標を連想又は想起し,その商品が他人(申立人)あるいは同人と経済的若しくは組織的に何らかの関係を有する者の業務に係る商品であるかのように誤認し,その商品の出所について混同を生ずるおそれがある

[異議2020-900133、審決日:2021年12月28日]

語頭部分に「DIOR」があるため、「DIORLV」の方が「zovladior」よりもディオールと紛らわしい印象を受けますが、特許庁の判断は”逆”でした。有名商標が絡む事案における商標の類否アプローチの違いが結論に如実に表れており、個人的には、有名商標に化体した業務上の信用を適切に保護する観点から、「zovladior」における類否判断がより適当かと考えます。