欧州司法裁判所:Zoom商標を「ダウンロード可能なコンピュータープログラム」に使用しても出所混同のおそれなし

[Newsletter vol.131]

欧州司法裁判所(CJEU)は、2021年6月30日、商標「Zoom」同士の出所混同のおそれが争われた事件において、両商標を「ダウンロード可能なコンピュータープログラム」に使用しても、機能が異なっていれば、混同のおそれはないとの判断を示しました。[裁判番号: EU:T:2021:391, Case T-204/20] 判決全文は、こちら


被異議商標「ZOOM

2016年10月16日、米国法人Facetec, Inc社は、国際登録第1323959号に係る文字商標「ZOOM」を、第9類の商品「携帯電話・スマートフォン・ポータブルメディアプレーヤー・携帯情報端末・タブレット等に用いるコンピューターソフトウェア,すなわち,ユーザーの3D顔認証後に携帯端末にアクセスが可能となるセキュリティーソフトウェア」を指定して、EUIPO(欧州連合知的財産庁)に出願しました。


日本法人ZOOM社による異議申立

2017年4月7日、日本法人ZOOM社は、第9類及び第15類の商品における自社のEU先行登録第488749号商標「ZOOMロゴ」(下掲)に基づき、被異議商標「ZOOM」は当該先行登録商標と抵触するとして異議を申し立て、そして、第9類の商品「楽器や録音装置用のダウンロード可能なコンピュータープログラム(downloadable computer programs, being intended for use in connection with musical instruments and sound recording apparatus)」において、EU領域内で実際に先行商標を使用していることを立証しました。


欧州連合知的財産庁(EUIPO)の判断

異議部(Opposition Division)及び審判部(The Board of Appeal)は、コンピュータープログラムという商品の性質上似通っているとしても、用途の違いが際立っており、両商品の類似性の程度は低いとの理由で、異議を却下しました。


欧州司法裁判所(CJEU)の判決

欧州司法裁判所は、以下のように述べ、EUIPOの判断に誤りはないとして、原審を支持する判決を言渡しました。

・現在のハイテク社会においては、コンピューター無くして、殆どの電子機器、デジタル機器は機能しない。その結果、様々に機能の異なるソフトウェアやコンピュータープログラムが幾多も存在するようになっており、ソフトウェアやプログラムである理由だけをもって類似性を認めることは、法が商標の所有者に認める保護範囲を明らかに越えており、結局のところ、ソフトウェアやプログラムを指定したEU商標権が、ソフトウェアやプログラムにおける後願商標の登録を実質的に排除することになりかねない。
“in today’s high-tech society, almost no electronic or digital equipment functions without the use of computers, with the result that there is a multitude of software or programs with radically different functions. To acknowledge similarity in all cases in which competing rights cover computer programs or software would clearly exceed the scope of the protection granted by the legislature to the proprietor of a trademark. Such a position would lead to a situation in which the registration of an EU trademark designating software or programs would in practice exclude subsequent registration of any other competing right designating such software or programs.”

・被異議商標の指定商品は、単に、3D顔認証システムを用いて携帯端末へのアクセスを実現するためのものであるのに対し、先行登録商標は、音楽やビデオの録音・転送・再生に利用されるものであるから、その需要者は一致しておらず、相互に補完する関係の商品とは認められない。これにより、両商品は非類似と認められる。
“the goods covered by the contested mark are intended solely to secure access to mobile devices through multi-dimensional facial recognition identification, whereas the goods covered by the earlier marks are devices for recording, transmitting or playing music or videos. They are not aimed at the same consumers and are not complementary within the meaning of the case-law, with the result that it must be held that they are not similar.”

・「ZOOM」の語は、『ブンブンという音を立てる。』を意味する英単語であるところ、先行登録商標「ZOOMロゴ」について、本件の場合、音に関連する商品との関係において、その識別力はやや低い(lower than average)ものと判断される。
“the word ‘zoom’ in English may mean to ‘make a humming or buzzing sound’. In those circumstances, the distinctive character of the earlier figurative mark ZOOM could be considered, in the present case, to be lower than average.”

・そうすると、本件の需要者には一般公衆も含まれるところ、被異議商標が付された商品を目にした需要者であれば、被異議商標「ZOOM」と先行登録商標「ZOOMロゴ」とを関連付けて認識するとは認められない。
“When faced with the goods covered by the contested mark, consumers comprising the relevant public will not establish a link between that mark and the earlier figurative mark ZOOM.”

従来インターネットに接続されていなかった様々なモノが、ネットワークを通じてつながるIoTの時代を迎え、コンピュータソフトウェアやプログラムがあらゆるジャンルの商品・サービスに組み込まれていく実情を勘案しますと、欧州司法裁判所の判断は、極めて妥当かと思われます。
日本では、用途が異なるコンピュータソフトウェアやプログラムを商品非類似と扱う方針が未だ定まっていませんが、近い将来、諸外国と足並みを揃えることを期待いたします。