欧州司法裁判所:「INCOCO」は「COCO」と出所混同のおそれが認められるとして、シャネル社に軍配

[Newsletter vol.130]

欧州司法裁判所は、2021年6月16日、商標「INCOCO」は、シャネル社のフランス商標「COCO」と出所混同のおそれがあるとして、シャネル社の訴えを認める判決を言い渡しました。
[裁判番号:COCO v INCOCO, EU:T:2021:365]

INCOCO

2014年1月、米国法人Innovative Cosmetic Concepts社は、国際登録を用いて、文字商標「INCOCO」を、化粧品や美容製品を中心に、第3類、第35類及び第44類の商品・役務を指定して、EU(欧州連合)出願を行いました。

シャネル社による異議申立

2014年10月、シャネル社は、フランスで登録している文字商標「COCO」(登録番号:1438544, 1571046)を引用し、「INCOCO」に対して異議を申立てました。

フランスにおける引用商標「COCO」は、せっけん、香水、エッセンシャルオイル、ヘアーローション、歯磨き粉、広告等、第3類、第35類及び第44類の商品・役務において登録されています。

欧州連合知的財産庁(EUIPO)の判断

審判部(The Board of Appeal)は、引用商標「COCO」は常に「Chanel」の文字とともに使用されている点を指摘し、シャネル社が主張する引用商標「COCO」の周知著名性について否定しました。これらの事情から、EUIPO審判部は、明らかな外観上の相違、中間レベルの称呼の類似性、「INCOCO」と「COCO」とは観念上比較できないことを踏まえ、両商標の類似性の程度は平均以下(below-average degree of similarity)と結論づけたため、これを不服として、シャネル社は提訴しました。


欧州司法裁判所(CJEU)の判決

欧州司法裁判所は、審判部の決定[Case R194/2019-1]は出所混同のおそれを判断する際の全体評価に誤りがあるとして、以下のように述べ、当該決定を取り消す判断を下しました。

1. 外観の対比

裁判所は、文字商標の語頭が常に決定的な要因になるわけではないと強調し、共通する「COCO」の文字の前に「IN」があることで相殺され、両商標の外観上の類似性は低いとしたEUIPOの判断は誤りであると認定しました。裁判所は、本件の文字構成においては、両商標に共通する「CO」が繰り返される態様、「COCO」の文字部分に、むしろ需要者の注意が集まるとのシャネル社の主張を支持しました。

2. 称呼の対比

両商標の音構成、音節の数、音調、これら全体を勘案すると、両称呼は根本的に異なるものではなく、むしろ、比較できる程度であるとして、裁判所は、両称呼の類似性の程度は、中くらいと認定しました。

3. 観念の対比

裁判所は、「INCOCO」が全体として一つの造語に該当するとしても、そのことをもって、関連公衆が、その一部から明確な意味合いを認識することが否定されるものではない、との判断を示しました。関連公衆によって容易に認識される文字が含まれているのであれば、「INCOCO」は、2つの文字部分に分離されるべきであり、「COCO」が、シャネル創業者「ガブリエル シャネル」のニックネームとして、関連公衆の間で周知著名性を獲得している事情を勘案すると、両商標の観念には、低程度の類似性(low degree of conceptual similarity)が認められる。

「COCO」の著名性の評価によって、欧州連合知的財産庁と欧州司法裁判所の判断が分かれた事案かと言えます。「COCO」の著名性が認定されれば、日本でも同様の判断になろうかと思います。商標弁理士として注目したいのは、欧州司法裁判所が判示した「赤文字」部分です。文字商標の場合、とかく、語頭文字・音の違いというのが強調して評価される傾向ですが、例外があると明示した点、実務的にも参考になる判決かといえます。