知財高裁:「〇国でデザイン」された商品は「〇国製」とは言えず、登録商標不使用に該当

[Newsletter vol. 151]

 知的財産高等裁判所は、令和4年3月22日、登録第5623868号商標「I R O PARIS」(以下、本件商標)が、その指定商品「フランス製の被服」等に使用されていないため権利を取り消した特許庁の不使用取消審決の是非が争われた裁判において、本件使用商品がフランス国以外の国で製造されたものであることから、「フランス製の」と「フランス国でデザインされた」等とは区別されているとして、本件商標の登録を取り消した特許庁の審決を支持する判断を下しました。

[令和3年(行ケ)第19987号審決取消請求事件/第3部:東海林裁判長]

本件商標

 原告(フランス国法人イロ)が、フランスの首都パリを表す欧文字「PARIS」を含む文字商標「I R O PARIS」を2012年10月17日に出願したところ(商願2012-083848)、特許庁は、翌年10月18日に登録を認めました。なお、原告は、特許庁の拒絶理由(商標法4条1項16号)を解消するために手続補正を行い、本件指定商品を全て「フランス製の」に限定しました。

第14類:フランス製の宝飾品,フランス製の宝玉,フランス製の宝玉の原石,フランス製の計時用具,フランス製の時計
第18類:フランス製の革及び人工皮革,フランス製の獣皮,フランス製の皮革,フランス製のトランク,フランス製の旅行かばん,フランス製の傘,フランス製の日傘,フランス製の財布,フランス製の小銭入れ,フランス製のハンドバッグ
第25類:フランス製の被服,フランス製の履物,フランス製の運動用特殊靴,フランス製の帽子


不使用取消審判

 被告(台湾法人イルー・インターナショナル・カンパニー・リミテッド)が本件商標の全ての指定商品に対して請求した不使用取消審判において、特許庁は、『本件使用商品が「フランス製の」被服等であるとは認められないから,原告が本件指定商品のいずれかについて本件商標の使用をした事実を証明したとはいえず,本件商標の登録を取り消すべきである。』と判断しました。[取消2019-300770]


裁判における原告の主張

 原告は、本件使用商品は「フランス製」の被服等に該当するため、特許庁の判断は誤りであると主張しました。

  1. 本件使用商品は,サプライヤー(製造者)がフランス以外の国に所在する場合であっても,フランス国パリにある原告の本社の従業員(デザイナー)によりデザインされ,パリで入手可能な素材を使用してパリで試作され,フランス国法人としての原告による厳格かつ恒常的な品質管理の下で生産され,パリの倉庫に送付され,パリから日本へ向けて出荷されている。被服のデザインや生地選び等の製造工程の重要なステップ及び当該被服の品質管理が,フランス国で厳重かつ恒常的に行われている限り,フランス以外の国において,生地が製造され,あるいは被服として縫製されて製造されているとしても,フランス国内で製造されたものと品質に相違はないと考えるのが客観的に妥当である。

2.「フランス製の」部分について厳格な文言解釈をただ機械的・画一的にあてはめ,フランス国内で製造工程の全てが行われている場合のみしか,「フランス製の被服」と認めないと限定解釈することは,国際的常識や現実の商取引の実情に到底合致するものではない。また,このような機械的・画一的限定解釈を盾に,現に自他商品識別力を発揮し,業務上の信用が現実に化体している本件商標を取り消すことは,商標法の制度趣旨(商標法1条)に反するばかりか,国際信義に反するおそれもある。


知財高裁の判断

 これに対し、知財高裁は、以下のとおり述べ、原告の主張を退けました。

  1. 商標法50条2項によれば,本件の場合,商標権者たる原告が本件商標の登録取消しを免れるためには,本件指定商品のいずれかについての本件登録商標の使用の事実を証明しなければならない。そして,使用の事実は本件指定商品と同一の商品に限られるのであって,指定商品に類似する商品についての使用の事実を証明しても,登録取消しを免れ得ないことは,同条項の文理上明らかである。
  2. 商標法50条2項の適用に当たり,使用する商標については商標法38条5項括弧書きが適用されるため,「登録商標と社会通念上同一と認められる商標」の使用であっても登録取消しを免れ得るが,いかなる商品についての使用であるかに関しては商標法に同旨の定めはないから,「社会通念上同一」とは登録商標に関する記述であって,「指定商品と社会通念上同一と認められる商品」について使用の事実を証明しても,商標の登録取消しを免れることはできないと解される
  3. 本件指定商品は,「フランス製の被服」であり,「フランス製」とは,フランス国内で製造された物を意味すると解されるところ,前記認定のとおり,本件使用商品は,フランス国以外の国で製造された物であるから,本件使用商品の使用によっては本件指定商品について本件登録商標を使用したものと認めることはできない。
  4. 本件使用商品はフランス国で企画等がされた被服等であって「フランス製の」被服等と著しく類似するから,商標の使用を通じた信用の蓄積がない商標を整理しようとする商標法50条の趣旨に照らして,本件商標の登録を取り消すことはいささか酷であるともいえる。しかしながら,そのような事情があるとしても,商標法50条2項の文理からすれば,「指定商品」を「指定商品と社会通念上同一と認められる商品」に拡張解釈することは認められないのであるから,かかる拡張解釈を排した本件審決の判断に誤りはない。
商標50条の文理解釈として、知財高裁の判断は妥当かと思われます。産地偽装が社会問題となり、産地の定義が商品によって曖昧な印象を受ける昨今の事情を勘案しますと、実際に使用する商品の産地が商標登録の指定商品と一致しない場合、商標権が取り消されるリスクがあることを認めた今回の裁判は、事業者に高度の注意を促したものと言えます。