東京地裁、不競法事件判決:ルブタンの赤色靴底(レッドソール)は「一般的なデザイン」

[Newsletter vol. 150]

東京地方裁判所は、令和4年3月11日、被告:株式会社エイゾーコレクションが自社ブランド「EIZO」を付して販売する赤色のゴム素材からなる女性用ハイヒールが、原告:フランス法人クリスチャン・ルブタン・エスアーエス(CHRISTIAN LOUBOUTIN SAS。以下、ルブタン社)の女性用ハイヒールの定番デザイン「赤色の靴底(レッドソール)」の侵害に該当するかが争われた裁判で、ルブタン社の主張を退ける判断を下しました。

[東京地裁民事第40部、平成31年(ワ)第11108号 不正競争行為差止等請求事件、裁判長:中島基至]


原告商品(ルブタン・レッドソール)

 原告は、平成3年のブランド創設時より、革素材を使用した女性用ハイヒールの靴底全体を赤色でラッカー塗装し、日本でも平成8年頃に輸入販売が開始されてから20年以上にわたって、当該商品を継続的に販売しており、ルブタン日本法人の女性用靴の売上高は33億円、「サンプルトラフィッキング」手法を用いた宣伝広告費は年1450万円にも上り、各種メディアにおいて注目されているだけでなく、令和2年10月に実施した20歳~50歳までの女性用ハイヒールを履く習慣のある女性を対象としたアンケートにおいて、回答者の65%が、ルブタンの出所を示すものと認識した結果等に基づき、女性用ハイヒールの赤色靴底(原告表示)はルブタンを示すものとして周知になっていると主張し、被告に対し、被告商品の販売差し止め、約4,200万円の損害賠償の支払いを求めました。


被告商品

 判決文によれば、被告は、遅くとも平成30年5月頃から、赤色のゴム素材からなる靴底に金色で「EIZO」のロゴマークが付された女性用ハイヒール(7種類)を販売しており、原告の訴えに対し、靴底が赤色の女性用ハイヒールは、原告商品が日本国内で販売される前から現在に至るまで、一般的なデザイン手法を用いた女性用ハイヒールとして、多くの事業者により製造販売されており、原告らが原告表示と類似すると主張する被告商品の形態は、「慣用されている商品等表示」(不競法19条1項1号)に該当するとして、不競法2条1項1号及び2号の「使用」に該当しない、と反論しました。


東京地裁の判断

 裁判所は、以下のように述べ、ルブタン社のレッドソールは不正競争防止法が保護する「商品等表示」には該当せず、出所の混同を生じさせるものと認めることはできない、と結論付けました。

  1. 商品に関する表示が複数の商品形態を含む場合において、その一部の商品形態が商品等表示に該当しないときは、上記商品に関する表示は、全体として不競法2条1項1号にいう商品等表示に該当しないと解するのが相当である。
  2. 原告表示は、原告赤色を靴底部分に付した女性用ハイヒールと特定されるにとどまり、女性用ハイヒールの形状(靴底を含む。)、その形状に結合した模様、光沢、質感及び靴底以外の色彩その他の特徴については何ら限定がなく、靴底に付された唯一の色彩である原告赤色もそれ自体特別な色彩であるとはいえないため、広範かつ多数の商品形態を含む
  3. 原告商品の靴底は革製であり、これに赤色のラッカー塗装をしているため、靴底の色は、いわばマニュキュアのような光沢がある赤色であって、原告商品の形態は、この点において特徴があるのに対し、被告商品の靴底はゴム製であり、これに特段塗装はされていないため、靴底の色は光沢がない赤色であることが認められる。
  4. 靴に使用される赤色は、伝統的にも、商品の美感等の観点から採用される典型的な色彩の一つであり、靴底に赤色を付すことも通常の創作能力の発揮において行い得るものであって、ハイヒールの靴底であっても異なるところはない。原告赤色と似た赤色は、ファッション関係においては国内外を問わず古くから採用されている色であり、女性用ハイヒールにおいても原告商品が日本で販売される前から靴底の色彩として継続して使用され、一般的なデザインとなっている
  5. 原告表示に含まれる赤色ゴム底のハイヒールは明らかに商品等表示に該当しないことからすると、原告表示は、全体として不競法2条1項1号にいう商品等表示に該当しないものと認めるのが相当である。
  6. 両靴底の光沢及び質感の差異は一見して分からない程度のものではなく、ラッカーレッドで革製の原告商品の形態と赤色ゴム底の被告商品の形態とは、材質等から生ずる靴底の光沢及び質感において明らかに大きく印象を異にする
ルブタンにとっては不本意な判決となりましたが、実務家目線では、不競法で権利行使する際の「商品等表示」の解釈や設定の仕方、周知性の立証方法について、色々と考えさせられる事案です。本件裁判は、ルブタンが7年近く争っている原告表示の商標登録にも影響することから、ルブタンが控訴する可能性もあり、今後の動向に注目したいと思います。