[Newsletter vol. 212]
知的財産高等裁判所は、令和6年11月11日、第10類指定商品「医療用機械器具(歩行補助器・松葉づえを除く)」と第44類指定役務「医療用機械器具の貸与」とは類似しないと判断した特許庁の審決(無効2023-890053号)の適否が争われた審決取消訴訟において、これらが非類似であるとの前提で商標法4条1項11号に該当しないとした原審の判断には誤りがあるとして、特許庁の審決を取り消す判決を言い渡しました。
[知財高裁 令和6年(行ケ)第10028号/第4部宮坂裁判長]
本件商標
被告、ハウル株式会社が所有する登録第6320554号商標「AWG治療」(標準文字)は、令和1年10月21日に出願、令和2年11月25日、第44類「医療号機械器具の貸与」他において、設定登録。
引用商標
原告、株式会社ジーウェーブが所有する登録第6217436号商標「AWG治療」(標準文字)は、平成31年4月25日に出願、令和2年1月17日、第10類「医療用機械器具(「歩行補助器・松葉づえ」を除く。),家庭用電気マッサージ器」において、設定登録。
特許庁の判断(原審)
原告が、令和5年6月30日、本件商標の第44類「医療用機械器具の貸与」他に対し、引用商標を根拠に商標法4条1項11号該当を理由に、商標登録無効審判を請求。
これに対し、特許庁は、令和6年2月8日、『医療用機械器具の貸与と、医療用機械器具については、製造・販売者及び提供者、用途、販売場所及び提供場所が異なり、需要者の範囲の一部において一致する場合があるとしても、一般的、恒常的な取引の実情を勘案して総合的に考慮すると、当該役務と商品とは相違するものである。よって、両商標の指定商品及び指定役務は、同一又は類似の商標を使用しても、それらの商品及び役務が誤認混同するおそれのない非類似の商品及び役務と言わざるを得ない』として、原告の主張を退ける審決(本件審決)を下しました。
知財高裁の判断
知財高裁は、両商品・役務の事業者、用途、提供場所・販売場所、需要者の範囲を検討した上で、以下のように述べ、「医療用機械器具の貸与」と「医療用機械器具」は、類似する商品・役務と判断しました。
- 商標法4条1項11号所定の商品と役務の類否は、それらの商品・役務に同一又は類似の商標を使用する場合には、同一の営業主体の製造・販売又は提供する商品・役務と取引者・需要者に誤認されるおそれがあると認められる関係にあるか否かにより判断すべきである(最高裁昭和36年6月27日第三小法廷判決・民集15巻6号1730頁参照)。具体的には、商品の製造・販売と役務の提供が同一事業者によって行われている実情の有無・程度、商品と役務の用途の共通性、商品の販売場所と役務の提供場所の同一性、商品と役務の需要者の重なり具合等を総合的に考慮し判断するのが相当である。
- 医療用機械器具の製造、販売、貸与等を行う企業を会員とする団体である商工組合日本医療機器協会においては、医療機器の製造販売業又は販売・貸与業の許可等を受けている企業が77社あり、そのうち、製造販売業と販売・貸与業の両方の許可等を受けている企業は53社(68.8%)あることも認められ、約3分の2の割合という多数の製造・販売業を行う事業者が、貸与業も行うことができる状況にある。
- 医療用機械器具の貸与は、他人の求めに応じて当該機械器具を貸与することであるところ、貸与という行為は、単に貸渡し行為をすることのみならず、需要者に当該機械器具を使用させることを当然に予定するものである(民法601条参照)。よって、その貸与の用途は、医療用機械器具の医療目的での使用ということができ、医療用機械器具の用途と共通するといえる。
- 多数の医療用機械器具の製造・販売を行う事業者が同時に貸与も行っている取引の実情があることや、ホームページを設けて申込みや問合せを受け付け、販売と貸与を共に説明していることに鑑みると、医療用機械器具の販売場所と貸与の提供場所は、いずれも当該企業の営業所所在地やインターネット上のホームページ等であると認められる。そうすると、医療用機械器具の貸与と医療用機械器具については、提供場所・販売場所が同じである場合が多いということができる。
- 医療用機械器具の貸与と医療用機械器具の需要者の範囲は、相対的な違いはあれ、医療機関と一般の需要者等を含む点で実質的には重なっている。
- このような取引の実情を踏まえると、医療用機械器具の貸与と医療用機械器具に同一の構成の商標「AWG治療」を使用する場合には、同一の営業主体の製造・販売又は提供する商品・役務と取引者・需要者に誤認されるおそれがあるというべき。
- 原告は、先願に係る引用商標の商標権者であり、「AWG治療」の商標を医療用機械器具に付した上でこれを引き渡す行為を第三者が行った場合、当該商標権の侵害を理由に禁止権を行使することができるはずである(商標法36条、37条1号、2条3項2号)。しかし、本件商標の登録が有効なものだとすると、「AWG治療」の商標を医療用機械器具に付した上でこれを貸与する行為(当然に「引渡し」を包含する。)は、通常、本件商標に係る商標の使用と認めるのが自然であり(同法2条3項3号)、商標権の及ぶ範囲の重複・抵触が生じかねない。このような状況を招来させるのは、権利範囲の問題と登録要件の問題が理論上は別個の問題であるにせよ、商標法全体の整合的解釈という観点からは好ましいことでない。以上の理由からも、医療用機械器具の貸与と医療用機械器具とは、類似するものと判断するのが適切である。