知財高裁:キングジム「テプラ」PRO用テープカートリッジの立体形状に、特別顕著性を認めず

[Newsletter vol. 195]


 知的財産高等裁判所は、令和6年1月30日、株式会社キングジムのラベルプリンター「テプラ」PROシリーズ用テープカートリッジの立体形状に係る商標(以下、本願商標)の識別力及び特別顕著性が争われた審決取消審判事件において、特許庁の審決(不服2022-895号審決)を支持し、30年以上に及ぶ販売実績、電子文具市場における売上シェア43%を超えているとしても、本願商標は、使用により自他商品識別力を有するに至ったと認められないとの判断を下しました。

[知財高裁令和5年(行ケ)第10076号/第3部東海林裁判長]

本願商標

 株式会社キングジムは、令和2年3月12日、同社が製造販売するラベルライター「テプラ」PROシリーズ用のテープカートリッジ(以下、本件商品)の立体形状について、第16類商品「ラベルプリンター用テープカートリッジ」を指定して、特許庁に立体商標出願しました(商願2020-27041)。これに対し、特許庁審査官は、本願商標は自他商品識別力を欠いており、また、使用による特別顕著性も認められないとして、令和3年10月20日、拒絶査定としたことから、出願人は、令和4年1月20日、拒絶査定不服審判を請求しました(不服2022-895号)。しかしながら、特許庁は、令和5年6月8日、本件審判請求は成り立たない旨の審決を下したため、出願人は、同年7月20日、本件審決の取消しを求めて、知財高裁に提訴しました。


原告の主張

1.本願商標の本来的識別力

 本願商標の特徴は、右向き凸出部を備えた蒲鉾状矩形部の中に大きく見えるテープリールの見え方と、本願商標の概外形との統合した結果として現れる全体的な形状であるところ、同種のラベルプリンター用テープカートリッジが、①「印字用テープをロール状にして収納する部分」、②「印字用テープの巻取りや送り出しをするような輪状の部品」及び③「ケースやカバーに当たる部分を半透明のものとすること」を有することは、本願商標の識別力を否定する理由とはならない。

2.本願商標の使用による特別顕著性

 本件商品は、30年という長期間にわたり、同一形状で継続的に販売されおり、電子文具市場における本件商品の売上高シェアは約43%を超え、また、株式会社インテージが実施したインターネットアンケート調査の結果、需要者の40.2%が本件商品の立体的形状のみで出願人の商品であると認識している結論を得たことから、本件商標は、「何人かの業務に係る商品であることを認識できる商標」に該当する。


知財高裁の判断

 知財高裁は、以下のように述べ、株式会社キングジムの請求を棄却する判決を言い渡しました。

  • 客観的に見て、商品等の機能又は美感に資することを目的として採用されると認められる商品等の形状は、特段の事情のない限り、商品等の形状を普通に用いられる方法で使用する標章のみからなる商標として、商標法3条1項3号に該当すると解される。また、当該商品の用途、性質等に基づく制約の下で、同種の商品等について、機能又は美感に資することを目的とする形状の選択であると予測し得る範囲のものであれば、当該形状が特徴を有していたとしても、同号に該当するものというべきである。さらに、需要者において予測し得ないような斬新な形状であっても、当該形状がもっぱら商品等の機能向上の観点から選択されたものであるときは、「商品又は商品の包装の形状であって,その商品又は商品の包装の機能を確保するために不可欠な立体的形状のみからなる商標」について商標登録を受けることはできない旨を規定する商標法4条1項18号の趣旨から、同法3項1項3号に該当するというべきである。
  • 本願商標の形状は、客観的に見て、商品の機能又は美感に資することを目的として採用されたものであり、かつ、本願商標の需要者であるオフィス用品、事務用品を購入する一般の消費者において、同種の商品等について、機能又は美感に資することを目的とする形状の選択であると予測し得る範囲のものであると認められる。そうすると、本願商標に係る立体的形状は、商品等の形状を普通に用いられる方法で使用する標章のみから成る商標として、商標法3条1項3号に該当するというべきである。
  • 本件商品は箱に入った状態で販売されており、店舗において本願商標の形状が顧客に示されないと認められる。したがって、需要者である一般の消費者は、本願商標の形状からではなく、箱やシールに記載された文字、あるいはウェブサイト上に記載された説明の記載から、本件商品を他の商品と識別すると考えられる。本件調査の自由回答では、写真に撮影された商品を販売する企業名及び商品名の両方を誤った者が回答者全体の約6割を占め、選択肢に「テプラ」を入れて商品名を選ばせる質問を含めても、自由回答による質問及び選択問題の全てを誤った者が全体の約半数にのぼったノイズを除くと、企業名又は商品名のいずれか一方を正答した者は回答者全体の31.0%にすぎず、選択肢を示して回答させる質問でも、35.8%にすぎない。本件商品が販売開始から約30年が経過していること及び販売地域が全国であることを考慮しても、本願商標が需要者の目につき易く,強い印象を与えるものであったということはできないから、本願商標が使用により自他商品識別力を有するに至ったと認めることはできない。