知財高裁:商品及び包装に一切使用されていない当該商品の「俗称」を、周知商標と認定

[Newsletter vol. 192]

 知的財産高等裁判所は、令和5年12月26日、登録第6525426号商標「地球グミ」(以下、本件商標)の有効性が争われた審決取消審判事件において、特許庁の審決(無効2022-890049号審決)を取消し、ドイツの菓子業者が製造するグミキャンディ「Trolli Plant Gummi」の俗称「地球グミ」は、本件商標に係る第30類指定商品「グミキャンディ」の需要者の間に広く認識されているとして、商標法第4条第1項第10により、本件商標の登録は無効との判決を言い渡しました。

[知財高裁令和5年(行ケ)第10079号/第2部清水裁判長]

本件商標

 本件商標は、標準文字で書された「地球グミ」からなるところ、30類商品「グミキャンディ」を指定して、令和31216に、韓国食品の輸入卸業を営む株式会社エス・エス・ビーより商標出願され(商願2021-157403)、出願人の早期審査の申出により、翌年3月9日に商標登録されました。


無効審判

 豊産業株式会社は、ドイツの菓子業者が製造する、地球に見立てた球状の青色のグミキャンディにマグマをイメージしたストロベリーフィリングを詰めた菓子(以下、原告商品)を令和2年10月に初めて輸入し、日本国内において販売しているところ、「地球グミ」は原告商品を表示するものとして日本国内若しくは外国の需要者の間に広く認識されていることから、本件商標は商標法第4条第1項第10号又は第19号に該当するとして、令和4年6月23日、特許庁に対し、登録無効審判を請求しました。

 しかしながら、特許庁は、令和5年6月20日、『原告商品の俗称である「地球グミ」が、原告の業務に係る商品を表示するものとして日本国内又は外国の一般の需要者の間に広く認識されるに至っていたものと認めることはできない。』として、本件商標の登録は有効との審決を下したことから、原告は、昨年7月25日、知財高裁に、原審決の取消を求める裁判を請求しました。


原告の主張

 原告商品は、平成30年頃、韓国の動画投稿者がそれを食べる様子に係る動画をSNSに投稿したことをきっかけに、多くの動画投稿者によって拡散され、我が国においても、原告商品を「地球グミ」として紹介する動画の投稿がSNSにおいて急増令和3年11月12日付け日経MJにおいて、「地球グミ」が「SHIBUYA109lab.トレンド大賞2021」の「カフェ・グルメ部門」の第2位に選出された旨の報道がされた。原告は、インスタグラムにおける原告のアカウントに「地球グミ」を付しており、取引業者との間や報道においても使用されており、グミキャンディについての商標としての使用がされていた。


知財高裁の判断

•原告商品の包装の前面上段には「Trolli」の文字が、前面中段付近には「Planet Gummi」の文字又は「Blue Planet」の文字がそれぞれ記載され、また、原告商品の個包装には「Trolli」の文字が記載されているが、原告商品並びにその包装及び個包装に「地球グミ」の文字の記載はない

•しかしながら、原告商品は、平成30年頃、動画投稿者及びその閲覧者を中心に韓国において大流行したところ、この流行が日本にも飛び火し、原告商品は、令和2年頃からは、日本においても、動画投稿者及びその閲覧者を中心に大流行し、遅くとも原告が原告商品の輸入販売を開始した同年10月までには、全国に店舗を展開する小売業者の中に、原告商品を「地球グミ」と称してこれを宣伝する者が現れるようになった。令和36月、「地球グミ」と称する大人気商品として、全国紙による新聞報道及び在阪の準キー局によるテレビ報道がされるまでに至り、同年上半期にはやった飲食物としてZ世代が選ぶランキングにランクインした。さらに、「地球グミ」と称する原告商品は、渋谷区にある著名な商業施設の運営会社による調査(15歳から24歳までの女性545名を対象としたもの)の結果である「SHIBUYA109lab.トレンド大賞2021」なる賞においても、その「カフェ・グルメ部門」の2位に入賞した。令和41月発行の「現代用語の基礎知識2022」においては、令和3年中に注目された物(食に係るヒット商品)として、原告商品の俗称たる「地球グミ」の語が取り上げられるに至った。

•以上の事情に照らすと、「地球グミ」の語は、遅くとも本件査定日(令和4222日)までには、原告商品を表示するものとして、需要者(若者を始めとするグミキャンディの消費者であると認められる。)の間に広く認識されている商標に該当していたものと認めるのが相当である。

原告は、原告商品に関する広告を内容とする情報に「地球グミ」を付して電磁的方法により提供していたと認められる

•本件商標からは、「地球のグミキャンディ」などの観念のほか、「原告商品」の観念が生じるといえ、両者は、観念を同じくする。また、本件商標に係る指定商品と原告商品は、いずれも「グミキャンディ」であるから、本件商標に係る指定商品は、原告商品と同一である。

•以上のとおり、本件商標は、商標法4110号に掲げる商標に該当するところ(なお、本件出願日において本件商標が同号に掲げる商標に該当しなかった旨の主張立証(商標法4条3項)はない。)、これと異なる本件審決の判断は誤りであり、取消事由は理由がある。

商品の製造者自らが使用しない商標であっても、取引において需要者の間で当該商品の俗称として使用、認識されるに至ったものであれば商標としての機能を発揮していることから、この点を踏まえた裁判所の判断は、極めて妥当かと思います。