[Newsletter vol. 186]
特許庁は、令和5年9月26日、商願2022-9770「株式会社ファミリーコーポレーション」(以下、本願商標)は、他人の名称を含む商標であり、かつ、その他人の承諾を得ているものとは認められないとして、商標法第4条第1項第8号により、登録を拒絶する審決を下しました。[事件番号:不服2022-19634]
本件商標
不動産仲介業を営む株式会社ファミリーコーポレーション(東京都中央区)は、2022年1月28日、自社の社名からなる文字商標「株式会社ファミリーコーポレーション」を、第35,36,37,39,41,42類の各種役務を指定して、特許庁に出願しました。
これに対し、特許庁審査官は、『本願商標は、宮城県仙台市青葉区木町通1丁目5番22-903号及び兵庫県加古郡稲美町中村174番地の2所在の「株式会社ファミリーコーポレーション」(以下、これらをまとめて「引用会社」という。)と同一の文字からなるものであり、かつ、その者の承諾を得たものとは認められない。したがって、この商標登録出願に係る商標は、商標法第4条第1項第8号に該当する。』として、同年9月1日、本願商標を拒絶しました。
商標法第4条第1項第8号
他人の肖像又は他人の氏名若しくは名称若しくは著名な雅号、芸名若しくは筆名若しくはこれらの著名な略称を含む商標(その他人の承諾を得ているものを除く)については、商標登録を受けることができない。
拒絶査定不服審判
出願人は、同年12月5日、上記拒絶査定を不服として、特許庁に審判を請求し、『比較的に極端に小さな産業的貢献をもつ引用商標に係る「人格的利益」が毀損される可能性はほとんど実害としてない』、『産業的規模が圧倒的に大きく産業的貢献度が圧倒的に大きい出願人に係る本件商標が、これと比較して圧倒的に小さな産業的貢献としかいい得ない引用商標に係る「人格的利益」を守るがために、商標登録をなし得ないことから「商標の使用をする者の業務上の信用の維持を図」れず、法趣旨を却って毀損する事態が生じている』として、本願商標は、商標法第4条第1項第8号には該当しない、と主張しました。
特許庁の判断(拒絶審決)
特許庁の審判官合議体は、以下のように述べ、原査定を支持し、同号により本件商標の登録を認めない審決を下しました。
- 商標法第4条第1項第8号は、他人の肖像又は他人の氏名、名称、その著名な略称等を含む商標は、当該他人の承諾を得ているものを除き、商標登録を受けることができないとする規定である。その趣旨は、肖像、氏名等に関する他人の人格的利益を保護することにあると解される。したがって、他人の肖像、氏名等を含む商標につき商標登録を受けようとする者は、他人の人格的利益を害することがないよう、自らの責任において当該他人の承諾を確保しておくべきものである(最高裁平成15年(行ヒ)第265号同16年6月8日第三小法廷判決)。また、同号が、他人の肖像又は他人の氏名、名称、著名な略称等を含む商標は、その他人の承諾を得ているものを除き、商標登録を受けることができないと規定した趣旨は、人(法人等の団体を含む。以下同じ。)の肖像、氏名、名称等に対する人格的利益を保護することにあると解される。すなわち、人は、自らの承諾なしにその氏名、名称等を商標に使われることがない利益を保護されているのである(最高裁平成16年(行ヒ)343同平成17年7月22日第二小法廷判決)。
- 本願商標は、「株式会社ファミリーコーポレーション」の文字を標準文字で表してなるところ、その表示態様からして、これは法人の名称を表示したものであることが明らかである。そして、当該名称と同一の名称からなる法人は、請求人以外にも原審が拒絶の理由で通知した引用会社が実在するところであり、当該引用会社が本願の商標登録出願時に存在していたことも認めることができる。しかしながら、請求人は、当該他人である引用会社から、何ら承諾を得ていない。 したがって、本願商標は、他人の名称を含む商標であって、かつ、当該他人の承諾を得ているものとは認められないものであるから、商標法第4条第1項第8号に該当するものといわざるを得ない。
- 商標法第4条第1項第8号は請求人と他人との間での、いずれの産業的貢献度が高いかということなどは考慮せず、「他人の氏名若しくは名称」を含む商標をもって商標登録を受けることは、そのこと自体によって、その氏名、名称等を有する他人の人格的利益の保護を害するおそれがあるものとみなし、その他人の承諾を得ている場合を除き、商標登録を受けることができないとする趣旨に解されるべきものである(知財高裁平成20年(行ケ)第10309号判決参照)。
また、自社の会社名と異なる法人名称を採択・使用することは、商取引の秩序を混乱させるおそれがあるとして、商標法4条1項7号により拒絶することが商標審査便覧42.107.36に規定されています。
従来より、法人の事業範囲を明らかに超える商品・役務においてまで人格的利益を認めるべきか議論されていますが、国内法人が207万社も存在する状況下、個人的には、何らかの制限が認められるべきかと考えています。現行法において、自社の会社名を商標登録する際には、同一名称の他社が存在しないことを事前に調査し、もし、同一名称の他社が存在する場合、他社と交渉して承諾を得るか、「株式会社」を外した略称での商標登録を選択・出願することが望ましいといえます。