[Newsletter vol. 184]
知財高裁は、令和5年9月7日、文字商標「くるんっと前髪カーラー」は第26類指定商品「ヘアカーラー」との関係において自他識別力を有するとの特許庁の審決(無効2022-890041)の妥当性が争われた審決取消訴訟において、商標法3条1項3号に該当するとして、原審を取り消す判決を言い渡しました。
[知財高裁令和5年(行ケ)第10030号/第2部清水裁判長]ノーブル株式会社が、自社商品(ヘアカーラー)に使用する文字商標「くるんっと前髪カーラー」について、2020年12月3日に出願したところ(商願2020-149483)、特許庁は、当該文字は指定商品との関係において自他商品識別力を有するとして、2021年6月7日に商標登録を認めました(商標登録第6399042号。以下、本件商標)。
これに対し、「前髪くるんとカーラー」を販売する粧美堂株式会社は、2022年6月2日、特許庁に無効審判を請求し、本件商標「くるんっと前髪カーラー」を指定商品(ヘアカーラー)に使用しても、これに接する取引者、需要者は、当該商品が「くるんっとした前髪、すなわち、軽やかに巻かれた前髪になるように前髪にクセを付ける(セットする)ことができるカーラー(頭髪を巻きつけてカールさせるための円筒形の用具)」であると理解するにとどまることから、商標法3条1項3号に該当するとして、本件商標登録の無効性(自他識別力欠如)について争いました。
しかしながら、特許庁は、『本件商標は、「くるんっと前髪カーラー」の文字を標準文字で表してなるところ、その構成文字全体としては成語や文章としての意味合いを特定するためには言葉が不十分であるから、各文字の語義に相応する漠然とした意味合いを連想させるとしても、具体的な意味合いまでは直ちに認識、理解できず、商品の品質表示としては具体性を欠くものである。髪が巻かれた前髪を表すために「くるんっ」という擬態語が使用されることがあることは把握できるとしても、本件商標のような文字構成からなる文章が、商品の具体的な品質等を表示する慣用的な表現として取引上一般に採択、使用されている事実関係は見いだせない。このため、本件商標は、商品(ヘアカーラー)の品質を具体的に表示するものではないから、商標法第3条第1項第3号に該当しない。』として、2023年2月14日、本件商標の有効性を認める審決を下したことから、粧美堂株式会社は、これを不服として、知的財産高等裁判所に審決取消訴訟を提起しました。
裁判において、粧美堂株式会社は、『「くるんっと」の文字部分が「前髪」及び「カーラー」の各文字部分と結合した本件商標が本件商品について使用されたときは、「くるんっと」の語は、前髪が「くるんと」巻かれた様子を記述的に示すものとして具体的な意味合いを認識させ、又は理解させ、当該語からは、それ以外の意味が生じ得ない。』、『「くるんっと前髪カーラー」の語句は、魅力的なヘアスタイルを求める女性の需要者に向けて前髪用の本件商品を製造・販売事業者の誰もが、商品の効能、用途等を適切に表示するものとして使用を欲するものであるから、特定の者による独占使用を認めるのは公益上適当でなく、本件商標は、独占適応性を欠く。』と主張しました。
知財高裁は、以下のように述べ、本件商標は商標法3条1項3号に該当し、自他識別力を欠くとの判断を示しました。
•商標法3条1項3号該当性を判断するに当たっては、このような一連一体の語句を構成する各語の意味に加え、取引の実情に照らし、取引者又は需要者によって、当該一連一体の語句が、商品の品質、効能、用途等の特徴を示すものと一般に認識されるものであるかどうかを検討する必要がある(昭和61年最判参照)。
•辞典に記載された「くるん」の語の意味及び用例、本件査定日前のウェブサイト及び新聞記事における「くるんと」等の語の使用例並びに日本語の文法に照らすと、「くるんと」の語は、前髪を含む毛髪について用いられるときは、通常、「(毛髪が)丸く曲がった様子」を示す語として用いられている。「くるんと」の語と「くるんっと」の語は、促音の有無により互いに意味を異にするものとは認められない。そうすると、「前髪」の語の直前に置かれた本件商標の構成中の「くるんっと」の語は、それが副詞として修飾することになる用言(動詞、形容詞等)が明示されていなくても、その内容は自明であって、通常、「(前髪が)丸く曲がった様子」を示すものとして、本件需要者等に認識されるものと認めるのが相当である。
•「前髪くるんとカーラー」とする商品を除くほか、「くるんっと前髪カーラー」の語句又はこれに準ずる語句を本件商品について用いる例があったと認めるに足りる証拠がないことを考慮しても、「くるんっと前髪カーラー」の語句に接した本件需要者等は、通常、当該語句が「丸く曲がった前髪を作るカーラー」を意味するものと認識することになると認めるのが相当である。
•「くるんっと前髪カーラー」の語句に接した本件需要者等は、当該語句が「丸く曲がった前髪を作るカーラー」を意味すると認識することになるところ、「カーラー」は、「頭髪を巻き付けてカールさせるための円筒形の用具」であるから、「くるんっと前髪カーラー」の語句は、単に本件商品(電気式のものを除くヘアカーラー)の効能等を述べたものにすぎない。
•したがって、本件商標は、本件商品の品質、効能等を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標であるということができるから、商標法3条1項3号に掲げる商標に該当する。