特許庁:カシオ腕時計「G-SHOCK」初号機の立体形状について、特別顕著性により商標登録

[Newsletter vol. 180]

 特許庁は、令和5年5月23日、カシオ計算機株式会社が1983年に発売した人気腕時計「G-SHOCK」の初号機(DW-5000C)の立体形状について、40年に及ぶ使用の結果、需要者は当該時計の形状だけをみて「G-SHOCK」であることを認識できるとして、審査官の拒絶査定を取消し、商標登録(第6711392号)を認める審決を下しました。[不服2022-11052号審決]


【本願商標】

 カシオ計算機株式会社は、令和3年4月28日、下掲の態様からなる立体的形状について、第14類「腕時計」を指定商品として、特許庁に立体商標として登録出願しました(商願2021-52961)。


【拒絶査定/審査官の判断】

 審査官は、「腕時計」を取り扱う業界においては、ベルト及び文字を表示する(又は文字盤を配する)ケースからなる形状の商品の取引が行われており、商品の美観や機能を発揮させるため、ベルトやケース等に様々な装飾(例えばすべりにくくするための凹凸など)を施した商品が他社(下掲)によって製造販売されている実情を踏まえ、取引者、需要者は、単に商品の美観や機能を発揮するために採用し得る立体的形状を普通に用いられる方法で表示したものとして認識する、として、令和4年4月11日、商標法第3条第1項第3号により登録を拒絶しました。

 40年近く「G-SHOCK」を製造・販売し続けてきた結果、現在では、本願商標を構成する立体的形状は「使用による識別力」を獲得しているとの出願人の主張に対し、審査官は、以下のように述べ、商標法第3条第2項の該当性を否定しました。

  • G-SHOCKのカタログや雑誌等の資料に掲載されている腕時計には「CASIO」及び「G-SHOCK」の文字が付されており、また、G-SHOCK腕時計の中には、文字の表示画面の形状が丸いものなど本願商標とは異なる形状のものが多数あることから、本願商標のみが出所識別標識として機能している事実を示すものとは認められない。
  • 「NERAエコノミックコンサルティング」を通じて行った本願商標に関する需要者のアンケート調査として、2021年6月11日から14日まで日本全国に移住する16歳以上の男女を対象に、インターネット調査の方法により、計1100名から回答を得た結果、「腕時計需要者」が、本願商標の画像を「カシオ」及び/又は「Gショック」と関連付けて回答(自由回答)した割合は55.52%と6割に満たないから、本願商標に係る立体形状を、需要者が出願人の商標として認識するに至ったとまではいえない。

 出願人は、審査官の判断(原査定)を不服として、令和4年7月15日、特許庁に対し、拒絶査定不服審判を請求しました。


【登録審決/審判官の判断】

1.商標法第3条第1項第3

本願商標の指定商品「腕時計」は、一般的に、文字盤などの表示部を囲むベゼルを備えた時計ケースと、それにつながるバンドにより構成されるものであるところ、本願商標は、構成全体として、比較的角張ったデザインの、ベゼルの中央部に時刻表示部を設けた腕時計の形状を表してなると看取できる。そうすると、本願商標は、その指定商品と関連して、商品等の機能又は美観に資することを目的として採用される、又はその機能又は美感上の理由から採用すると予測される範囲のものにすぎないから、商品の形状を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標といえる。

  したがって、本願商標は、商標法第3条第1項第3号に該当する

2.商標法第3条第2項(特別顕著性)

  • アンケート調査において、調査対象者のうち、請求人又はその関連商品(カシオ、G-ショックなど)を回答したのは、自由回答式で55.09%、多肢選択式で66.27%である。
  • 本願商標に相当する形状を備える請求人商品は、その後継商品も含めると1983の発売以降に40の販売期間があり、その販売実績も長期にわたる安定した販売数量をあげ、むしろ近年にかけて販売数量は増加傾向にある。また、広告宣伝として、請求人商品などの商品写真を伴う商品紹介記事が継続してメディアを通じて掲載、放映されており、それら記事情報によれば、請求人商品は、請求人ブランドG-SHOCKを象徴する代表的なモデルに位置づけられ、その形状は、従来の腕時計にはない、耐衝撃性を備える独特の形状からなると評価されている。そして、本件アンケート調査によれば、日本全国に居住する16歳以上の男女のうち、本願商標に相当する画像から、請求人との関連を回答できたのは、多肢選択式の回答も考慮すれば6を超える
  • そうすると、本願商標に相当する立体的形状(ベゼル、ケース、バンド)は、請求人商品が備える独特な商品形状として、その指定商品に係る需要者の間において、相当程度認知され、請求人に係る出所識別標識たり得る特徴として、広く認識されるに至っていると認められることから、商標法3条第2の要件を具備する