特許庁:エルメスのパッケージカラーに係る色商標について、自他識別力&特別顕著性を否定

[Newsletter vol.175]

 特許庁は、令和5年4月25日、エルメスのパッケージに施された2色(橙色と茶色)の組み合わせからなる色商標(商願2018-133223)について、その指定商品の特徴(色彩)を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなるものであり、需要者が何人かの業務に係る役務であることを認識することができず、使用をされた結果需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識できるとは認められないとして、登録を拒絶する審決を下しました。[不服2021-13743号審決]


本願商標

 本願商標は、下掲のとおり、色彩の組合せのみからなるものであり、箱全体において、橙色(RGBの組合せ:R221, G103, B44)、上部周囲に茶色(RGBの組合せ:R94, G55, B45)とする構成からなり、仏国法人エルメス・アンテルナショナルが、各種商品(香水,化粧品,宝飾品,腕時計,文房具類,ハンドバッグ)及びこれらの小売等役務を指定して、2018年10月25日に登録出願したところ、特許庁審査官が、令和4年7月19日、本願商標は商標法第3条第1項第3号及び第6号に該当し、また、使用による識別力を獲得したものとは認められないとして、登録を拒絶したことから、エルメス社は、令和4年10月8日、拒絶査定不服審判を請求し、本願商標の登録性について争いました。


特許庁の判断(拒絶審決)

  1. 商品若しくは商品の包装、役務の提供の用に供する物(以下、商品等)に使用される色彩は、商品又は役務のイメージや美感を高めるために適宜選択されるものであり、自然発生的な色彩や商品等の機能を確保するために必要とされるものもあることからすると、その色彩について、商品若しくは役務の出所を表示するものとして又は自他商品役務を識別するための標識として認識することはないとみるのが相当であって、かつ、本願商標の指定商品又は指定役務を取り扱う又は提供する分野において、それと異なる事情があるという事実は認められない。
  2. 同分野において、その商品等に橙色と茶色の組み合わせに近似した色彩が一般に用いられている事実があることから、本願商標が格別に特異な色彩よりなるとはいえず、また、箱状の商品等の全体に色彩を付すことも珍しくはないことからすると、色彩を付する位置としてもありふれたものといえる。そうすると、これに接する取引者、需要者は、商品又は役務のイメージや美感を高める等、商品又は役務の魅力の向上等に資するため、通常使用される又は使用され得る色彩を表したものと認識するにとどまる。したがって、本願商標は、その指定商品の特徴(色彩)を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなるものであるから、商標法第3条第1項第3号に該当し、また、需要者が何人かの業務に係る役務であることを認識することができない商標というべきであるから、商標法第3条第1項第6号に該当する。
  3. 本願商標又はこれを構成する色彩の使用に際しては、多くの場合、需要者の注意を強く引くように、包装箱中央や包装用リボン上などに「HERMES」「エルメス」の文字や馬車と人を描いた図形が用いられており、これらの文字又は図形から商品若しくは役務の出所が認識され又は認識され得ることは否定できない。
  4. 本願商標の指定商品及び指定役務の需要者に日本全国の一般消費者が含まれるものが少なくないところ、本件アンケート調査では、その調査の対象者が9都道府県(北海道、埼玉県、千葉県、東京都、神奈川県、愛知県、兵庫県、大阪府、福岡県)エリアの、30歳~59歳、男性・女性であって、世帯年収1,000万円以上の者に限られていることから、当該対象の設定に問題があり、当該調査結果を基礎とした本願商標の認識度を推し量ることは適切とはいえない。 さらに、3種類の箱に本願商標を付し、ブランド名を自由回答させたアンケートの正答率は「36.9%」であり、10個の選択肢からの選択方式での正答率でも「43.1%」に過ぎないことから、本アンケート調査結果によって、本願商標が請求人の業務に係る商品又は役務を表すものとして需要者の間で広く知られていると判断することは到底できない。
  5. 以上のことからすると、本願商標が、その指定商品及び指定役務との関係において、使用をされた結果需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識することができるに至っているとは認められない。