知財高裁:三菱鉛筆「ユニ(uni)」の赤紫色について、商標としての出所表示機能を認めず

[Newsletter vol. 169]

 知財高裁は、令和5年1月24日、三菱鉛筆株式会社が1958年から販売している鉛筆「ユニ(uni)」の本体に使用している赤紫色が、商標として出所表示機能を発揮しているか争われた審決取消訴訟において、商標法第3条第1項第3に該当し、かつ、商標法第3条第2の要件を具備しないとして、本願商標の登録を拒絶する審決を支持する判決を言い渡しました。

[令和4年(行ケ)第10062号審決取消請求事件/第2部:本多裁判長]

本願商標

 三菱鉛筆株式会社は、2015年4月1日、下左掲の色商標(単色)を、第16類指定商品「鉛筆(色鉛筆を除く。)」において特許庁に出願しました(商願2015-29864)。商標の詳細な説明には『商標登録を受けようとする商標は「DICカラーガイド`PART2(第4版)2251」  のみからなるものである。』と記載されています。

 本願商標は、1958年発売の鉛筆「ユニ(uni)」、1966年発売の鉛筆「ハイユニ(Hi-uni)」の6側面の大部分に基調色として付された赤紫色(単色)で、鉛筆の後端部には黒色又は黒色と金色が配されています。


拒絶審決

 特許庁は、令和4年4月13日、『筆記用具を取り扱う業界において、赤系や茶系の多様な色彩(朱塗色、ボルドーカラー、バーガンディレッド、ワインレッドなど)が、商品の色彩(外装色)として採択されている実情がある。そうすると、本願商標は、単に商品の特徴(商品の色彩)を普通に用いられる方法で表示するにすぎない。』、『昭和33年の発売以降、60年以上の継続した販売実績があり、新聞や雑誌、インターネット記事等による商品紹介記事も継続して掲載されているから、当該商品は、我が国の需要者の間において、一定程度の認知度を獲得している商品である実情はうかがえる。しかしながら、原告商品の外装は、本願商標に係る色彩を基調色としつつも、他の色彩(黒色、金色)や文字(「MITSU-BISHI」、「Hi-uni」、「uni」等)を表示してなるから、本願商標に係る単一の色彩のみで商品の出所を表示してなるものではない。さらに、アンケート調査において、比較的鉛筆に親しんでいる需要者の間においても、本願商標から、原告との関連を想起できる者は50%にも満たず、半数以上の需要者は原告との関連を想起できていないから、本願商標の指定商品に係る一般の消費者(鉛筆の使用頻度が低い者を含む。)の間における認知度は、それより低いものと考えられる。そうすると、本願商標に係る色彩は、その指定商品に係る需要者の間において、原告に係る出所識別標識として広く認識されるに至っているとまでは認められない。』として、本願商標を、商標法3条1項3号により拒絶する審決を下したため、三菱鉛筆は、これを不服として、知的財産高等裁判所に、審決の取消を求める裁判を起こしました。


知財高裁の判断

 知財高裁は、以下のように述べ、60年以上の販売実績によりユニ鉛筆が相当程度認知されているとしても、本願商標を構成する赤紫色はそれ自体、出所表示機能を発揮しているとは認められない、と判断しました。

1.一般に、商取引においては、商品の外装等の商品又は役務に関して付される色彩は、商品又は役務のイメージ、美感等を高めるために多種多様なものの中から選択されて付されるものにすぎないから、そのようにして付された色彩が直ちに商品又は役務の出所を表示する機能を有するというものではない。現に、取引の実情をみても、 本願商標の近似色は、本件指定商品である鉛筆を含む筆記用具に関して、広く使用されているものである。

2.以上によると、本願商標は、本件指定商品である鉛筆(色鉛筆を除く。)について使用される場合であっても、本願商標に接した需用者及び取引者をして、本願商標に係る色彩が単に商品(鉛筆)のイメージ、美感等を高めるために使用されていると認識させるにすぎないものと認めるのが相当である。そうすると、本願商標は、本件指定商品である鉛筆の特徴(鉛筆の外装色等の色彩)を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標であるということができるから、本願商標は、商標法3条1項3号に掲げる商標に該当する

3.原告商品(ユニ、ハイユニ又はユニスターと称する鉛筆)は、需用者の間において、相当程度の認知度を有しているものと認められる。しかしながら、原告商品には、本願商標のみならず他の色彩及び文字も付されているところ、鉛筆を含む筆記用具について、本願商標の近似色が広く使用されている実情も併せ考慮すると、原告商品に触れた需用者は、本願商標のみから当該原告商品が原告の業務に係るものであることを認識するのではなく、本願商標と組み合わされた黒色又は黒色及び金色や、当該原告商品が三菱鉛筆のユニシリーズであることを端的に示す「MITSU-BISHI」、「uni」、「Hi-uni」、「unistar」等の金色様の文字と併せて、当該原告商品が原告の業務に係るものと認識すると認めるのが相当である。加えて、鉛筆の市場においては、原告及び株式会社トンボ鉛筆が合計で80%を超える市場占有率を有しており、比較的鉛筆に親しんでいる需用者としては、本件アンケート調査における質問をされた場合、回答の選択の幅は比較的狭いと考えられるにもかかわらず、本願商標のみを見てどのような鉛筆のブランドを思い浮かべたかとの質問に対し、原告の名称やそのブランド名(三菱鉛筆、uni等)を想起して回答した者が全体の半分にも満たなかったことからすると、本願商標のみから原告やユニシリーズを想起する需用者は、比較的鉛筆に親しんでいる者に限ってみても、それほど多くないといわざるを得ない。

4.以上によると、本件指定商品に係る需用者の間において、単一の色彩のみからなる本願商標のみをもって、これを原告に係る出所識別標識として認識するに至っていると認めることはできない。