日本:知財高裁、「VEGAS」・「ベガス」は「ラスベガス」の略称とは認め得ない

[Newsletter vol. 143]

知的財産高等裁判所は、12月20日、登録第6080858号商標「VEGAS」及び登録第6080857号商標「ベガス」の文字商標が、第41類指定役務「娯楽施設の提供」との関係において自他役務識別力を有するかが争われた審決取消訴訟において、以下のように述べ、商標法3条1項3号には該当しないとの特許庁の判断を支持し、本件商標の登録は有効と判断しました。

[令和3年(行ケ)第10078号審決取消請求事件/令和3年(行ケ)第10079号審決取消請求事件、第4部:菅野裁判長]
  1. 「ベガス」の語が有する意味として,ラスベガスの略称が含まれることは明らかであるが,辞典はその語の内容を示すものにすぎす,辞典に掲載されているからといって,直ちに,その語が広く一般に知られていることを示すものではないし,辞典はそれぞれに掲載基準が異なるから,ある語がどの辞典に掲載されどの辞典に掲載されていないかや,その語が掲載された辞典の数の多寡によって,直ちに,その語が広く一般に知られているか否かが判明するものでもない
  2. 全国紙若しくはその地方版,全国誌又はそれらに関係するウェブサイトに「ベガス」がラスベガスの略称として用いられた例が相当数あることが見て取れる。しかしながら,それら記事のほとんどは,「ベガス」の語が見出しにのみ用いられ,記事本文中では「ベガス」の語ではなく「ラスベガス」の語が用いられているものや,「ベガス」の語が米国内の地名であることを推知する記載があったり,記事内容が賭博に関する事実を報道する文脈で用いられているものである。そうすると,ラスベガスの略称を意味するために「ベガ ス」の語を単独で用いることが我が国で定着しているものとは認め難く,「VEGAS」,「ベガス」の語がラスベガスの略称として広く一般に知られているとまでは認め得ない
  3. 役務が「娯楽施設の提供」である以上,国外の地であるラスベガスがその提供の場所を表すものとは,通常理解され難い。また,我が国では「ラスベガス」の語と賭博場のイメージとが観念上強固に結び付いているところ,「娯楽施設の提供」の役務の中には,本来,「賭博場の提供」の役務は含まれないと解されることにも鑑みると,取引者・需要者は,「娯楽施設の提供」の役務との関係において本件商標に接したとしても,ラスベガスを直ちに想起し,あるいは役務の質や内容がラスベガスに関連のあるものであると理解するとはいえず,「娯楽施設の提供」の役務について,「VEGAS」及び「ベガス」の語がラスベガスの略称として広く一般に知られていると認めることはできないから,本件商標は商標法3条1項3号の商標とはいえない
  4. 見出しは,記事内容を厳しい字数制限の下に端的に示さなければならないものであり,記事の性質によっては広く一般に知られている語のみから構成できない場合もあり,あくまで記事本文と一体となって情報を伝えるものであるから,見出しに用いられているからといって,その語が広く一般に知られているものであるとは直ちにいえない。現に,ラスベガスの略称として「ベガス」の語を使用した記事のほとんどにおいて,記事本文では「ラスベガス」の語が改めて用いられており,これは,「ベガス」の語単体では読者にラスベガスと理解されないことに備えたものと解される。そうすると,見出しに「ベガス」の語が用いられていたとしても,このことから,この語がラスベガスの略称として広く一般に知られていることが裏付けられているとはいい難い。

国内のテーマパークに海外の地名が表示されていても、誰も、パークの所在地が当該地にあるとは思わないでしょうから、本件は、海外の地理的名称の保護の在り方が問われた事案といえ、「VEGAS」「ベガス」の語が「ラスベガス」の略称と認識されるか否かが争点となりました。結論は妥当と思われますが、記事の見出しに略称が使われるのをよく目にしますので、本文中に正式名称が記載されていることを根拠に略称の認知度を否定した裁判所の認定には、やや疑問を感じます。