米国:ナイキ社、リル・ナズ・Xとのコラボスニーカー「Satan Shoes」に係る商標権侵害裁判で、MSCHFと和解

[Newsletter vol.126]

ナイキ社が、リル・ナズ・Xとのコラボスニーカー「サタンシューズ(Satan Shoes)」を制作したクリエイティブ集団、MSCHFを商標権侵害で訴えた裁判は、両者の和解により解決。

本件事件は、MSCHFが、ナイキ社の「Air Max 97」をベースに同社の許可なく制作した「サタンシューズ」を発売するとのニュースが流れた後の本年3月29日、ナイキの著名な商標権を侵害し、汚染するとして、ナイキ社がニューヨーク州東部地区裁判所に提訴しました(Case 21-cv-1679)。

問題となったシューズは、リル・ナズ・Xが新曲「Montero (Call Me By Your Name)」のミュージックビデオにおいて着用したことで話題ともなった、赤と黒が鮮烈な特別仕様のデザインのスニーカーで、逆十字やペンタゴン、新約聖書のルカの福音書からの1節「わたしは、サタンが稲妻のように天から落ちるのを見ていた」を表す「Luke 10:18」がつま先に刻印され、更に、本物の人間の血入りエアユニットが搭載されている、とのことです。
MSCHFが、限定666足、1,018ドル(約11万円)でこのシューズを発売したところ、僅か数分で完売しました。

訴状において、ナイキ社は、「ナイキは、MSCHFが同社のシューズをカスタマイズして「サタンシューズ」を制作することを許可していない。どの商品にNIKEロゴ(スウォッシュ)を付するか決定する権原は、ナイキ社が有しており、MSCHFのような第三者ではない」と述べ、サタンシューズは誤認混同を生じるおそれがあると主張しました。また、SNSユーザーの中には、この商品の影響で、ナイキをボイコットする書き込みがされていることにも触れ、ブランド価値が著しく毀損されると主張しました。

これに対し、MSCHFは、非常に洗練されたスニーカーマニアの需要者は、1,018ドルもする数量限定スニーカーを「芸術作品(works of art)」と捉えて購入しており、誰も、ナイキが「サタンシューズ」を許可したと勘違いすることは有り得ない、と主張しました。また、Rogers v Grimaldi著作権事件における「The Rogers」テストを引用し、本件シューズは、コレクターに1足1,018ドルで販売された、「個々に品番が付された芸術作品」であり、以前販売した「Jesus Shoes」と同じく、美術館に展示されるコレクション・アイテムに該当する、と反論しました。

裁判所がナイキ社の主張を認め、本件シューズの出荷を禁止する仮差し止め命令(temporary restraining order)を決定した後、両当事者は、MSCHFが、自発的な商品のリコールと行い、「サタンシューズ」だけでなく、無許可で以前販売した「Jesus shoes」についても買い戻すことを条件に、和解に同意しました。