[Newsletter vol.127]
知的財産高等裁判所は、令和3年4月21日、十文字商標の類似性が争われた商標権侵害訴訟(控訴審)において、東京地方裁判所が下した判断を支持し、控訴人(TRAVELPLUS INTERNATIONAL社)がバッグパック等に使用する控訴人標章は、被控訴人(ヴェンガー・エス・アー)の登録商標と類似し、商標権侵害が成立する、との判決を言い渡しました。
[令和2年(ネ)第10060号 商標権侵害差止等請求控訴事件]
WENGER
スイス法人ヴェンガー・エス・アー(以下「WENGER社」)は、以下の態様からなる国際登録第1002196号商標(以下「本件商標」)を、第18類指定商品「バックバッグ」他において、2010年11月5日より、日本国内で登録しています。
SWISSWIN
TRAVELPLUS INTERNATIONAL社(以下「TI社」)は、「SWISSWIN」ブランドのバックパック等に、正方形部分の外周内に十字を配したロゴマーク(以下「控訴人標章」)を付して販売しました。判決によると、TI社のグループ会社は、WENGER社のバッグをOEM製造していたようです。
知財高裁の判断
知財高裁(第3部鶴岡稔彦裁判長)は、以下のように述べ、原判決は相当であり、本件控訴は理由がないとして、棄却する判断を下しました。
1.十字部分の色彩等に基づく類否
商標法4条1項4号は,赤十字の標章と同一又は類似の商標について商標登録を受けることができないと定めている。赤十字の標章と同一又は類似の商標でなければ十字部分を含む商標の登録は認められる余地があり,十字部分を含む商標において十字部分の色彩が識別性等の観点からどのような意味を有するかは,その商標の具体的な構成等に照らして判断されるべき事柄であって,一概に,十字部分を有する標章において特に十字部分の色彩が類否に大きく影響するということはできない。
2.十字以外の部分等に基づく類否
商標法4条1項1号により,被控訴人商標が登録されているのはスイス国旗と類似していないからであるとしても,そのことから直ちに,被控訴人商標のうち,十字部分以外の円弧からなるループ状図形が要部であるとして,その部分の比較に基づいて商標の類否を判断すべきであるとはいえない。
本件商標と控訴人標章は,いずれも十字部分と外周部分からなり,十字部分は本件商標及び控訴人標章の中心にあって目立つ位置にあるから,類否判断に当たっては,十字部分も含めて被控訴人商標と控訴人各標章のそれぞれの全体を比較考察すべきである。