Newsletter vol.112をリリースしました。

[日本]知財高裁:結合商標と図形商標との類否に関する判例

知的財産高等裁判所は、9月10日、文字と図形からなる商標(本願商標)と図形商標(引用商標)との類否が争われた裁判において、原告(シンガポール法人サンクスアイ グローバル プライベート リミテッド)の主張を退け、両商標は類似するとした特許庁の判断を支持する判決を言い渡しました。
[令和2年(行ケ)第10040号 審決取消請求事件、第3部:鶴岡裁判長]

原告は、2017年8月4日、分割出願により、第3類「化粧品,せっけん類,歯磨き,香料,他」を指定商品として、「Related to Heart」、「THANKSAI」の文字とリボン状のハート型図形からなる商標(以下、本願商標)を出願しました(商願2017-103120)。これに対し、特許庁は、先行に係る他人の登録第5939662号図形商標(指定商品:第3類せっけん類,歯磨き,化粧品,香料。以下、引用商標)と類似するとして、商標法4条1項11号を理由に、本願商標の登録を拒絶しました。拒絶査定不服審判においても同様に判断されたため(不服2019-5954号審決)、これを不服として、原告は、当該審決の取消を求め、知的財産高等裁判所に提訴しました。

<本願商標>

<引用商標>

原告は、「本願商標は、全体として一連一体で不可分的に結合されているロゴであり、文字と図形との組合せであっても分離観察することができない結合商標であるから、これを分離観察することができるとした本件審決の判断には誤りがある。」「世間一般においては、会社5 名とシンボルマークとを組み合わせて表すことが広く行われており、本願商標も、各構成部分について、常にその一体的な記憶、印象、連想等の下で需要者等に捉えられるのであるから、本願商標の構成中の一部分を取り出して分離観察することを正当化するような事情を見出すことはできない。」「仮に、本願商標を分離して観察することが可能であったとしても、THANKS部分又はTHANKSAI部分のいずれかを要部として認定することができるだけであり、本件図形部分のみを取り出して要部とすることはできない」等と主張しましたが、裁判所は、以下のように述べ、本願商標は引用商標との関係において商標法4条1項11号に該当すると判断しました。

  1. 本願商標においては,左側から順に,赤色の図形である本件図形部分,黒色の文字であるTHANKS部分及び赤色で多少図案化された文字であるAI部分が,重なり合うことなく配置されているところ,このような色彩や構成の違いからすれば,各構成部分は,同じ高さで横一列に配置されてはいるものの,それぞれが独立したものであるとの印象も与え,視覚上分離して認識され得るものといえる。
  2. THANKS部分は,目につきやすい中央部に相当程度の幅で表されており,看者の目を引きやすいとはいえるものの,他方で,一般に,赤色は黒色よりも注意を引きやすい色彩であるといえることからすれば,本願商標に接した者は,THANKS部分のみならず,赤色の本件図形部分及びAI部分にも注意を引かれる
  3. 本件図形部分,THANKS部分及びAI部分は,称呼の面からみても,観念の面からみてもばらばらであり,統一性のある称呼ないし観念によって結び付けられているとはいえないから,本願商標は,称呼,観念の観点から不可分であるということもできない。
  4. そうすると,本件図形部分とその他の構成部分とは,本件図形部分のみを分離して観察することが取引上不自然であると思われるほど不可分的に結合しているものとは認められない
  5. したがって,本件図形部分を分離して観察することは可能であるというべきところ,本件図形部分は,相応の特徴を備えている上,それが,看者の注意を引きやすい赤色で描かれた図形であることや,最も左側に配置されていることなども併せ考慮すると,本願商標に接した者は,本件図形部分を,単なる装飾ではなく,THANKS部分及びAI部分とは独立したシンボルマークのようなものと認識するものといえるから,これを要部として観察することも許されるというべきである。
  6. 本件図形部分及び引用商標は,色彩が異なるものの,それ以外の構成は同一である上,いずれも特定の称呼及び観念を生じないものであることからすれば,類似の商標であると認められる。
  7. いわゆる企業ロゴに接した需要者等が,図形やマーク部分のみに注意を引かれることも当然にあり得るというべきであるから,企業ロゴについて,常に全体を一体的に観察すべきであるとはいえない。

判決全文は、こちらをご覧ください。

企業名の横に図形が描かれている企業ロゴをよく見受けますが、企業名が知れ渡っているとしても、他社の図形商標と似通った図形を使用していると、本件のように、ロゴ全体を登録できない事態に陥ってしまうリスクが生じます。