東京地裁:製造者の商標権消滅後に販売代理店が登録した「ゴミサー」に基づく権利行使は濫用

[Newsletter vol. 241]


 東京地方裁判所は、令和8年1月16日、被告が、その製造する業務用生ごみ処理機に使用する商標「ゴミサー」について、被告代表者名義の商標権消滅後に、販売代理店である原告が取得した同一名称「ゴミサー」の商標登録第5769618号(以下、原告商標権)を侵害するかが争われた商標権侵害訴訟において、原告の被告に対する原告商標権に基づく権利行使は、権利の濫用として許されないとして、原告の請求を棄却する判決を言い渡しました。
[東京地裁 令和5年(ワ)第70505号/民事第46部高橋裁判長]


被告の行為

 エスキー工機株式会社(被告)は、平成4年頃から、ゴミサーという商品名の業務用生ごみ処理機(被告商品)の製造・販売を開始。当時の被告代表者Aは、平成5127日、ゴシック体調の「ゴミサー」の文字を等間隔に配置した商標(被告旧商標)を第7類「生ゴミ処理機」を指定して出願し、平成11618日に設定登録されました(商標登録第4284828号)。なお、被告旧商標権は、平成21618日、存続期間の満了により消滅しました。

 被告は、平成827日、原告との間で、被告商品の販売代理店契約を締結し、原告は、被告の販売代理店として被告商品を販売するようになり、被告商品は、直接又は原告を含む複数の販売代理店を通じて販売され、その販売数はピークの時期で年間200台以上、平成14年以降は年間50台から100台程度でした。


原告の行為

 株式会社エイ・アイ・シー(原告)は、平成27119日、「ゴミサー」(標準文字)の商標(原告商標)について、第7類「生ゴミ処理機、液体肥料製造装置」を指定して出願し(本件出願)、同年65日に設定登録を受けました(商標登録第5769618号)。

 原告は、本件出願時までに、被告商品の総販売数のうち60%以上、多い時には約80%を販売する最有力の販売代理店であり、令和元年5月までは、被告の販売代理店として製造元として被告の会社名を表示して被告商品の販売を継続し、令和3年8月30日まで、原告ウェブサイトでも「ゴミサー」という業務用生ごみ処理機の製造元として被告の会社名を表示していた一方で、令和元年から、株式会社テクノウェーブが製造した業務用生ごみ処理機(原告商品)の販売を開始しました。


裁判の争点

 原告商標と被告標章は類似し、被告商品が原告商標の指定商品に当たることについて、当事者に争いがないことから、本件裁判では、①権利の濫用の抗弁の成否、②先使用権の抗弁の成否、③原告の損害の発生及びその額、が争点となりました。


東京地裁の判断(権利の濫用の抗弁の成否) 

  • u被告のパンフレットには、被告商品の商品名として「ゴミサー」の文字から成る標章及び被告標章が付された被告商品の画像が表示され、被告は、販売代理店との間で契約書を締結して広告の内容についても管理していたこと、被告商品には製造元として被告の会社名が記載された名板が付されていたことからすれば、本件出願の当時、業務用生ごみ処理機について使用される被告標章を含む「ゴミサー」の標章には、被告商品の開発製造者であり、複数の販売代理店に対する販売元に当たる被告の信用が化体していたものといえる。
  • 原告は、本件出願時までに、被告商品の最有力の販売代理店であり、「ゴミサー」の標章への信用の蓄積に相当程度貢献したものといえる。しかし、業務用生ごみ処理機のような機械は、製造者によって、製造される機械が本来有すべき性能を備えるものとなっているか否か、不具合の多寡などが左右されるといえるし、被告商品には製造元として被告の会社名が付されていたことも踏まえれば、仮に、同標章に、被告商品の精力的な営業活動を通じて原告の信用が化体しているとしても、それは一販売代理店としての信用であって、原告独自の信用ではない
  • 被告旧商標権が平成21年6月18日に消滅したからといって、被告が「ゴミサー」の標章についての権利を放棄したことにはならないし、被告から原告に「ゴミサー」の標章に化体した信用が移転するものでもない
  • 原告は、被告旧商標権が消滅していることを知ると、被告が被告商品について被告標章を使用していることを十分に認識しながら、本件販売代理店契約の継続中に、被告に無断で原告商標権の設定登録を受けたものである。
  • 原告は、原告商標権の設定登録の事実を被告に知らせず、被告による被告標章の使用に対する権利行使もしていなかったにもかかわらず、被告との間で本件販売代理店契約の終了や「ゴミサー」標章の使用について何らの協議をすることがないまま、被告商品の販売を中止し、「ゴミサー」の標章を付した原告商品の販売を開始し、その後、本件無効審判請求が確定したのを受けて、原告商標権の権利行使を行ったものである。
  • 被告は、本件出願の前後を通じ、被告による被告商品についての被告標章の使用態様は変わっておらず、原告が被告商品の販売を中止し、原告商品の販売を開始したからといって、被告が被告商品について被告標章を使用する正当な利益が失われるものではない
  • 「ゴミサー」の文字から成る標章に化体した信用の帰属、本件出願から権利行使に至る経緯、被告における被告標章の利用状況など本件に現れた一切の事情に照らせば、原告の被告に対する原告商標権に基づく権利行使は、権利の濫用として許されないというべきである。被告標章が被告の業務に係る商品を示すものとして周知であるとまではいえないが、周知性を獲得するに至っていないことは、本件に現れた一切の事情に照らし権利の濫用に当たるとの判断を左右するものではない
原告が被告の求めに応じて本件出願をしたのか、両代表者の供述及び陳述が矛盾することについて、裁判所は、被告の求めに応じたのに経過を連絡しないのは不自然で、原告代表者の供述及び陳述は採用できない、と断じました。販売代理店による商標の無断登録は取消事由ですが、既に除斥期間も経過しており、「権利の濫用の抗弁」を認めた裁判所の判断は妥当と思われます。