知財高裁:拒絶理由を通知しない審判手続に瑕疵あるも、結果に影響しないため取消事由に該当せず

[Newsletter vol. 200]


 知的財産高等裁判所は、令和6年4月24日、審判手続きにおいて、原査定における拒絶理由(商標法第3条第1項第3号)とは異なる拒絶理由(商標法第3条第1項第6号)を「拒絶理由通知」しないまま下された審決の妥当性が争われた審決取消訴訟において、新たな「拒絶理由通知」を怠った原審判手続には瑕疵(違法)があると認定するも、それが審決の結論に影響を及ぼすと認められない場合には、審決取消事由とはなり得ないとして、訴えを棄却する判決を言い渡しました。

[知財高裁令和5年(行ケ)第10109号/第4部宮坂裁判長]

本願商標

 本願商標「奇跡のラカンカ」の文字からなるところ、令和2年8月27日、第30類「ラカンカを加味した菓子(果物、野菜、豆類又はナッツを主原料とするものを除く。)、ラカンカを加味したコーヒー」等を指定して、特許庁に商標出願されました(商願2020-106386)。

 特許庁の審査官が、本願商標は商標法3条1項3号に該当するため拒絶査定(原査定)としたことを受け、出願人は、令和4年4月29日、拒絶査定不服審判を請求しました(不服2022-6605号)。

 特許庁の審判官(合議体)は、令和5年8月17日、本願商標は商標法3条1項6号に該当し、『原査定は、本願商標が3条1項3号に該当するものとして拒絶したものであるが、本願商標は、自他商品の識別標識としての機能を有しないものとするものであるから、当審の認定、判断の内容は、原査定と実質的に相違するものではない。』として、本願商標の登録を拒絶する審決(本件審決)を下したことから、出願人は、拒絶査定の理由と異なる拒絶理由(3条1項6号)により審判請求不成立とした本件審判には手続上の瑕疵があるとして、令和5年10月2日、知的財産高裁裁判所に、本件審決の取消しを求める訴訟を提起しました。


知財高裁の判断

 知財高裁は、以下のように述べ、特許庁における手続きの経緯を踏まえ、本件審判手続きの手続上の瑕疵は取消事由にならないと判断し、本願商標は商標法3条1項6号に該当するとして、原告の請求を棄却しました。 

  1. 特許庁における手続では、本願商標に対する拒絶理由通知及び原査定で拒絶理由の適用条文を商標法3条1項3号とされていたところ、審判手続では「審尋」と題する書面が原告に送付され、① 本願商標は同項6号に該当する旨の合議体の判断及び理由を示すとともに、② 原査定は同項3号に該当するとして本願を拒絶したが、同項6号に該当するとの理由も原査定の認定、判断と実質的に相違せず、新たな拒絶の理由に当たらないとして、③ 意見があれば回答書を提出するよう求めた。これに対し、原告は、回答書提出期限を経過しても何ら反論しなかった。
  2. 本件審決に先立って新たな拒絶理由通知はされていない。しかし、拒絶理由通知にいう「拒絶の理由」とは、商標法が定める具体的な登録拒絶事由(根拠条文)を示して、これに該当することの説明をするものと解すべきであり、根拠条文が異なれば、原則として、それのみをもって「異なる拒絶の理由」に当たるというべきである。
  3. 3条1項各号の実定法上の意義としては、それぞれが独立した別個の登録拒絶事由を定めるものであり、同項6号の「前各号に掲げるもののほか」の文言からも明らかなように、同項6号と同項1号~5号との間に概念上の上下関係、包摂関係があるわけではない
  4. 本件での原査定の理由と本件審決の理由は、そもそも拒絶の根拠条文が異なる上、両者の判断内容が実質的に同一で改めて弁明の機会を付与する必要がないといえるような特段の事情も認められないから、両者は「異なる拒絶の理由」に当たると認めるのが相当である。そうすると、本来、55条の2第1項、15条の2所定の新たな拒絶理由通知が必要であったところ、この手続を履践することなく本件審決に進んだ本件審判の手続には瑕疵( 違法) があるというべきである。仮に16条の期間制限のために新たな拒絶理由通知をすることが許されなかったという事情があるとしても、瑕疵があることに変わりはない。
  5. しかし、審判手続に瑕疵があっても、それが審決の結論に影響を及ぼすと認められない場合には、審決取消事由とはなり得ないと解される。本件審判手続においては、審尋書面が原告に送付され、本件審決の理由が事前に明らかにされ、曲がりなりにも弁明の機会が与えられていた。加えて、審尋書面及び本件審決で示された拒絶の理由は、原告が拒絶理由通知に対して提出した意見書中で主張していた内容を逆手に取って、本願商標の意味するところについて原告の主張を全面的に採用した上で、そのような意味に理解される本願商標は3条1項6号に該当することになると切り返したものである。仮に、原告に適式な弁明の機会が付与されていたとしても、本件意見書で自ら主張していた内容を覆すのでない限り有効な反論はなし得ないし、本件意見書と矛盾する内容となることを承知の上であえて反論をしたとしても、禁反言の原則に反する主張又は合理的理由のない場当たり的な対応と受け止められる状況が容易に予想されたところである。
  6. 以上の事情を総合すれば、本件審判の手続に上記で述べた瑕疵はあるものの、その手続上の違法は、審決の結論に影響を及ぼすものではないと解するのが相当である。