特許庁:「ボルドーウェーブ/BORDEAUX WAVE」は国際信義則に反するため、商標登録を取消

[Newsletter vol. 185]

特許庁は、令和5年9月1日、商標登録第6576001号商標「ボルドー ウェーブ/BORDEAUX WAVE(以下、本件商標)を、その指定商品(第3類「せっけん類,化粧品,香料,薫料」)について使用するときは、「フランスの代表的なぶどう酒の産地」及び「フランスのボルドー地方で(のみ)造られるぶどう酒」を意味するものとして我が国の需要者の間に広く認識されてい「ボルドー」及び「BORDEAUX」の語へのただ乗り(フリーライド)や希釈化(ダイリューション)を生じさせるおそれがあるばかりでなく、ボルドー地方のぶどう生産者及びぶどう酒製造者はもとより、国を挙げてぶどう酒の原産地統制名称の厳格な統制、保護をしているフランス国民の感情を害するおそれがあるとして、商標法第4条第1項第7号違反により、登録を取り消す決定を下しました。[事件番号:異議2022-900374]


本件商標

 花王株式会社は、2021年12月22日、以下の態様からなる文字商標を、第3類商品「せっけん類,化粧品,香料,薫料」を指定して、特許庁に出願しました。特許庁は、拒絶理由には該当しないとして、同年6月7日、登録査定を送達し、同月22日に本件商標を登録しました。

 本件商標は、同年6月30日に商標公報に掲載され、花王グループ傘下の化粧品ブランド「RMK」のリップカラーとして、使用されているようです。


異議申立て

 フランス国立原産地・品質研究所(INSTITUT NATIONAL DE L’ORIGINE ET DE LAQUALITE)、及び、ボルドーワイン委員会(CONSEIL INTERPROFESSIONNEL DUVIN DE BORDEAUX)は、同年8月31日、本件商標に対して、特許庁に異議を申し立てました。

 BORDEAUX」(ボルドー)は、フランス南西部のジロンド県の県都で、ロンヌ川に沿う港市であり、葡萄酒、ワインの集散地又は砂糖、ブランデー、綿織物などを産出する都市として世界的に有名である。この「BORDEAUX」(ボルドー)との地名は、フランスの原産地統制名称法により、原産地統制名称として定められており、厳格にその使用が統制されている。この表示を付した商品は、日本国においても広く販売されており、ワイン・食品分野の取引者・需要者のみならず、その名称は産地を表示する標章の代表的なものの一つとして世界的な著名性を獲得しているところ、本件商標がその指定商品に使用された場合、著名な原産地名称「BORDEAUX(ボルドー)」の表示へのただ乗り(フリーライド)及び同表示の稀釈化(ダイリューション)を生じさせるおそれがあることのみならず、本来、限定された発泡性ぶどう酒にのみ付されるべき同表示が、別の商品・役務に使用されることによって、同表示の汚染(ポリューション)を生じされるおそれがあり、また、国を挙げてぶどう酒の原産地名称または原産地表示の保護に努めているフランス国民の感情を害するおそれがあることは明らかというべきであるから、商標法第4条第1項第7号により取り消すべきものである、と異議申立人は主張しました。


特許庁の判断(取消決定)

 特許庁の審判官合議体は、以下の理由により、異議申立人の主張を認め、本件商標の登録を取り消す決定を下しました。

  • 「ボルドー」の語は、その原語である「BORDEAUX」を含め、遅くとも1980年以降、我が国において、フランス南西部にある代表的なぶどう酒の産地を表す地名であり、かつ、同地で造られるぶどう酒をも指称する語として、我が国において、一般に広く知られるに至っているといえ、また、当該「BORDEAUX」の語は、生産地域、製法、生産量等の所定の条件を備えたぶどう酒についてのみ使用できるフランスの原産地統制名称であることも相当程度知られているといえる。
  • 本件商標は、その構成中に「ボルドー」及び「BORDEAUX」の語を含むものである。そして、「ボルドー」及び「BORDEAUX」の各語は、本件商標の登録出願時及び登録査定時に、「フランスの代表的なぶどう酒の産地及び「フランスのボルドー地方で(のみ)造られるぶどう酒」を意味するものとして我が国の需要者の間に広く認識されていたことからすれば、その構成中に当該語を含み、「ボルドー」の音を含む本件商標は、構成や称呼を考慮すると、当該ぶどう酒ないしその産地を連想、想起させる場合も少なからずあるとみるのが相当である
  • フランスのボルドー地方では、ぶどう生産者及びぶどう酒製造者が長年その土地の気候、風土を利用して優れた品質のぶどう酒生産に努めており、また、同国においては、国内法令を制定し、1935年以降、原産地名称国立研究所が中心となって「BORDEAUX」を含む原産地統制名称の厳格な統制、保護をしてきており、その結果として「BORDEAUX」についての著名性が確立されているものといえる。そうすると、本件商標をその指定商品について使用するときは、我が国において需要者の間で広く認識されている「ボルドー」及び「BORDEAUX」の語へのただ乗り(フリーライド)や希釈化(ダイリューション)を生じさせるおそれがあるばかりでなく、ボルドー地方のぶどう生産者及びぶどう酒製造者はもとより、国を挙げてぶどう酒の原産地統制名称の厳格な統制、保護をしているフランス国民の感情を害するおそれがあるというべきである。
  • したがって、本件商標は、公正な取引秩序を乱し、国際信義に反するものであるから、公の秩序を害するおそれがある商標であり、商標法第4条第1項第7号に該当する。