[Newsletter vol. 182]
特許庁は、令和5年7月26日、フランス国法人Hermes International(以下、エルメス社)が請求した商標登録第6275593号「HAIRMES」に対する無効審判について、「HERMES」の有名性へのただ乗り(フリーライド)や希釈化(ダイリューション)を意図したものであり、エルメス社の業務に係る商品と誤認されるおそれがあるとして、エルメス社の主張を認める審決を下しました。[無効2022-890082号審決]
【本件商標】
米国法人Dog Diggin Designs, LLCは、2019年10月16日、標準文字で書された「HAIRMES」の文字商標を、第20類「ペット用ベッド, 愛玩動物用枕, ペット用クッション」、第28類「ペット用のおもちゃ」を指定して、特許庁に商標登録出願しました(商願2019-133625)。
特許庁が2020年8月18日に本件商標の登録を認めたため、エルメス社は、2020年10月15日、本件商標の登録取消しを求め、異議を申し立てましたが、特許庁は本件商標の登録を維持する決定を下したことから(異議2020-900266号決定)、昨年10月18日、エルメス社は本件商標に対して無効審判を請求しました。
【本件商標権者によるブランドパロディ】
本件商標権者は、有名ブランドのデザインやイメージ、ネーミングに似せたペット用品を、「Parody Beds」、「Parody Toys」と称して展開しており、本件商標が付されたペット用品は、オンラインセレクトショップ「Sweet Candy」等を通じて国内の需要者向けに販売されています。
– 自社ウェブサイト: https://www.dogdiggindesigns.com
– Sweet Candy: https://www.sweetcandy.co.jp/
【無効審決/審判官の判断】
特許庁は、以下のように述べ、本件商標は商標法第4条第1項第15号に該当するため、登録を無効と判断しました。
1.エルメス社商標「HERMES」の周知著名性
「HERMES」(エルメス)は、創業から180年以上の歴史を有し、我が国でも50年以上の輸入販売実績がある高級アクセサリーや衣料品に係るファッション分野におけるブランド(取扱商品にはペット用品も含む。)であり、雑誌やインターネット記事などのメディアを通じて継続的に商品紹介記事も掲載されていることから、引用商標には、本件商標の登録出願時及び登録査定時において、請求人に係るブランドまたは請求人の業務に係る商品を表示する商標として、我が国の需要者の間に広く認識されていたと認められる。
2.「HAIRMES」と「HERMES」の類似性の程度
称呼において、本件商標の称呼「ヘアメス」と引用商標の「エルメス」の称呼については、語尾の「メス」の2音は共通するものの、語頭の2音「ヘア」及び「エル」の音の差異により、明瞭に聴別し得るものである。また、、本件商標は特定の観念を生じないものの、引用商標からは、「(ブランドとしての)HERMES(エルメス)」または「(ギ神)ヘルメス」の観念が生じるから、観念においては相紛れるおそれはないものである。しかしながら、外観において、需要者の目に留まりやすい語頭の「H」及び後半の「RMES」の4文字のつづりを引用商標と共通にするものであることから、本件商標と引用商標とは、近似した印象を与えるものであり、一定程度の類似性を有するものというべきである。
3.本件商標の使用状況及び取引状況
本件商標権者のウェブサイトには、本件商標と白い縫い目を両側に配した茶色のリボンを配したデザインからなるオレンジ色のペット用ベッド・クッションおもちゃが掲載されており、これら商品の色及びデザインは、エルメスの包装用箱の色及びリボンを模したものと認識される状況を総合的に勘案すると、本件商標権者は、本件商標を登録出願するにあたり、引用商標が、請求人の業務に係る商品に使用して我が国の需要者の間に広く認識されていたことを承知の上で、引用商標の周知性へのただ乗り(フリーライド)や希釈化(ダイリューション)を意図していたとみるべきである。
4.出所混同のおそれ
商標法第4条第1項第15号は、周知表示又は著名表示へのただ乗り(フリーライド)及び当該表示の希釈化(ダイリューション)を防止し、商標の自他識別機能を保護することによって、商標を使用する者の業務上の信用の維持を図り、需要者の利益を保護することを目的とするものである(平成12年7月11日 最高裁平成10年(行ヒ)第85号)ところ、本件商標権者は、本件商標を登録出願するにあたり、引用商標の存在を承知の上で、それと近似した商標を登録出願したものであり、引用商標の周知性へのただ乗り(フリーライド)や希釈化(ダイリューション)を意図していたとみるのが相当である。
そうすると、本件商標をその指定商品に使用する場合には、その商品が請求人の業務に係る商品であると誤信されるおそれがあるといわざるを得ない。