知財高裁:王冠デザイン図形と文字「REIGN/TOTAL BODY FUEL」の結合商標における要部

[Newsletter vol. 179]

 知財高裁は、令和5年6月22日、王冠をデザインした図形と「REIGN/TOTAL BODY FUEL」の文字からなる結合商標(以下、本願商標)と、先行に係る他人の登録第5589978商標「RE!GN」(以下、引用商標)との類否が争われた商標拒絶審決取消訴訟において、特許庁の判断を支持し、両商標は類似するとの判断を下しました。
[知財高裁令和5年(行ケ)第10017号/第2部本多裁判長]


 エナジードリンク「REIGN」を展開する米国法人REIGN BEVERAGE COMPANY LLCは、2020年10月8日、下掲の態様からなる本願商標を、第25類及び第28類において特許庁に出願したところ(商願2020-124498)、引用商標「REiGN」(第25類)と類似するとして、商標法第4条第1項第11号により、審査において拒絶されました。


 これを不服として、特許庁に拒絶査定不服審判を請求しましたが(不服2022-2303)、特許庁は、『本願商標の構成中「REIGN」の文字部分は、他の構成要素からは分離、独立して、最も目を引く、出所識別標識としては強く支配的な印象を与える要部ということができるから、当該文字部分を要部として分離、抽出し、引用商標と比較して商標の類否を判断すべき』、『本願商標の要部と引用商標とは、外観においては、記憶に残る印象としては近似し、また、称呼(レイン)及び観念(治世。支配。)を共通にするから、取引者、需要者に与える印象、記憶、連想等を総合して全体的に考察すれば、両商標は、その出所について誤認混同を生ずるおそれがある類似の商標と認められる』として、令和4年10月14日、原査定を支持する審決を下したことから、出願人は、当該拒絶審決の取消を求め、知的財産高等裁判所に提訴しました。


 出願人は、裁判において、『本願商標中の図形部分は、構成全体面積の約3分の2という大きな部分を占め、上段の中央に黒塗りで力強く顕著に表示されているのであるから、出所識別標識として見る者の注意を最も強く引き付ける。このため、「REIGN」の文字部分のみが強く支配的な印象を与えるということはできず、王冠の図形及び「TOTAL BODY FUEL」の文字部分からも出所識別標識としての称呼、観念が生じることから、本願商標の構成部分全体と引用商標を対比して判断しなければならない』と主張しました。


しかしながら、知財高裁は、以下のように述べ、両商標は類似する、と判断しました。

複数の構成部分を組み合わせた結合商標と解されるものについて、商標の構成部分の一部が取引者、需要者に対し商品又は役務の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものと認められる場合や、それ以外の部分から出所識別標識としての称呼、観念が生じないと認められる場合等、商標の各構成部分がそれを分離して観察することが取引上不自然であると思われるほど不可分的に結合しているものと認められない場合には、その構成部分の一部を抽出し、当該部分だけを他人の商標と比較して商標の類否を判断することも許されるというべきである。

本願商標の図形部分は、その大きさが全体の3分の2を超えるものであり、黒色ではっきりと表されていることから、本願商標において強く支配的な印象を与える部分といえる。また、文字部分は、「REIGN」の文字部分と「TOTAL BODY FUEL」の文字部分からなるところ、一段目と二段目は文字の大きさやフォントが明らかに異なるために、視覚的に独立した印象を与えるものであるとともに、「REIGN」の文字部分が他の文字部分に比して著しく太いフォントで大きく表されていることから、本願標章を見た者に対し、「REIGN」の文字部分もまた、強く支配的な印象を与える部分といえる。文字部分である「REIGN TOTAL BODY FUEL」の全体から、特定の観念及び称呼が生じるということはできない。また、文字部分の全体が、英文として特定の意味を有する熟語や文章であると認めることもできず、各英単語の意味を考慮しても、文字部分の全体から特定の観念を生じるということはできない。

•以上を総合すると、本願商標は、図形部分、「REIGN」の文字部分及び「TOTAL BODY FUEL」の文字部分からなる結合商標であるところ、各構成部分がそれを分離して観察することが取引上不自然であると思われるほど不可分的に結合しているものとは認められないから、その構成部分の一部であり、文字部分のうち強く支配的な印象を与える「REIGN」の部分を抽出し、当該部分(以下本願要部)だけを他人の商標と比較して商標の類否を判断することも許される

•本願要部と引用商標とを比較すると、その外観はフォントがやや異なっており本願商標の方が太い文字であること及び3文字目が、引用商標では「I」の下に「★」を配したもので、「!」の文字をデザイン化したものである点において異なるものの、本願要部と引用商標は、それが表す文字列が同一であること、引用商標の3文字目のデザイン化の程度が著しいとはいえず、欧文字の「I」に近いものであることを考慮すると、そのデザインの差異により見る者に与える印象の差異が大きいということはできず、外観において近似しているというべきである。そして、文字列が同一であって、称呼及び観念が共通することからすると、本願要部と引用商標は、外観において近似しており、また、称呼及び観念を共通にし、同一又は類似の商品又は役務について使用するときは、その商品又は役務の出所について誤認混同が生じるおそれがあるというべきであるから、互いに類似する

本願商標が後願であることから、知財高裁の判断は結論として妥当と思いますが、商標実務家としては、「不可分結合」の判断の難しさを感じざるを得ません。個人的見解として、結合商標が後願の場合、先行登録商標の独創性・有名性を考慮した上で、『先願優位の原則』により、例外的に「不可分結合」で整理し、一方、結合商標が先願の場合、『一商標一出願の原則』により、「不可分結合」を前提として処理する方が、予見可能性の観点からも望ましいように思われます。