市松模様と商標登録:ルイヴィトン「ダミエ」柄~鬼滅の刃「炭治郎コスチューム」柄

[Newsletter vol. 138]

「東京オリンピック&パラリンピック2020」のエンブレムとしても採用された、我が国の伝統的な織模様の一つ「市松模様」。「市松模様」とは、碁盤目状の格子の目を色違いに並べた模様で、江戸時代中期に、『佐野川市松』という歌舞伎役者が舞台でこの模様の袴を着ていたところ、当時の女性の間で大流行し、それ以来、『市松模様』の呼び方が定着したそうです。

「市松模様」のデザインとして、世界的に有名なルイヴィトンのバッグに描かれたダミエ(Damier)」柄があります。また、最近では、人気アニメ「鬼滅の刃」の主人公・炭治郎のコスチュームに描かれた黒と緑の市松模様を、街中のコンビニ等でもよく見かけます。

さて、このような伝統模様は、商標登録できるのでしょうか?また、登録できたとした場合、他社は、それと似た「市松模様」を使用できなくなるのでしょうか?

これらの問いに対する特許庁の最近の判断を、ご紹介したいと思います。


商願2020-78058号図形商標(黒と緑の市松模様)

商願2020-78058/炭治郎の羽織柄

(出願人:株式会社集英社、出願日:2020年6月24日、区分:9,14,16,18,25,28類)

特許庁は、2021年5月28日発送に係る拒絶理由通知書において、『「黒色と緑色の正方形を互い違いに並べ、連続反復的に配置した構成からなる、いわゆる「市松模様」の一種と理解されるものですから、全体として、装飾的な地模様として認識されるにとどまり、かつ、その構成中に自他商品の識別力を有する部分を見出すこともできません。そうしますと、本願商標は、これに接する需要者が何人かの業務に係る商品であることを認識することができない。』と述べ、商標法3条1項6号に該当する、と判断しました。

これに対して、集英社は、意見書において、『本願商標は,純粋な市松模様のみからなる商標ではなく,外縁に不規則な長方形を配した,いわば半端な部分をも含めており,かつ,これらを黒色の正方形の枠線で囲繞されている,という外観上の特徴を備えた正方形の図形商標である』等と反論しました。

しかしながら、特許庁は、『「市松模様」は、伝統的な柄模様として親しまれ、被服などの装飾的な図柄として普通に使用されている実情があります。そうすると、本願商標は、出願人が主張するような特徴が見られるとしても、全体として看者に与える印象から見ると、普通に使用されている装飾的な図柄を超えているということはできません。してみれば、本願商標は、特徴的な形態を有しているということはできませんから、出願人の主張を採用することはできません。』と述べ、商標法3条1項6号により登録は認められないとして、本年9月24日、拒絶査定を送達しました。


判定第2020-695001号/国際登録第952582号(ルイヴィトン・ダミエ柄)

(判定請求人:株式会社神戸珠数店、被請求人:LOUIS VUITTON MALLETIER)

国際登録第952582号/ダミエ柄

判定とは、商標権の効力が及ぶ範囲について、当事者からの申立てに応じて、特許庁がその見解を提供する制度(商標法28条)です。

判定を請求した株式会社神戸珠数店は、「珠数入れ、経本入れ、御朱印帳入れ等の袋物」の表面に2色の四角形を交互に配した模様(イ号標章)を描き、パンフレットに、商品の布地の模様を表す「市松模様」、「市松柄」、「市松生地」の語を表示して、ネット販売していたところ、ルイヴィトンより、国際登録第952582号に係るダミエ柄の商標権侵害に該当するとの通報を受けたことから、特許庁に判定を求めました。

イ号標章/神戸数珠店の珠数袋

特許庁は、以下のように述べ、本年4月21日、ルイヴィトンのダミエ柄の国際登録第925282号商標権の効力は、神戸珠数店の販売する当該商品には及ばない、との判定を下しました。

『布地などに用いられる日本古来の模様として広く一般に知られ、親しまれている「市松模様」と同様の態様といい得るものであること、そして、使用商品に係るパンフレットにおいて、「市松模様」、「市松柄」及び「市松生地」の語が、使用商品の布地の模様を表すものとして、商品説明中に記載されていることを併せてみれば、イ号標章は、使用商品である「珠数入れ、経本入れ、御朱印帳入れ等の袋物」に使用される布地の模様である市松模様として認識されるにすぎないというのが相当である。そうすると、イ号標章は、その使用商品との関係において、当該商品の布地全面の模様として使用された、日本古来の模様として広く一般に知られ、親しまれている市松模様にすぎないから、商標法第26条第1項第6号に該当し、自他商品の識別標識として機能するような態様で使用されているものとはいえない。』