知財高裁:「六本木通り特許事務所」の事務所名は、需要者が商標とは認識できない

[Newsletter vol. 128]

 知的財産高等裁判所は、令和3年4月27日、「六本木通り特許事務所」の文字からなる商標について、第45類指定役務「スタートアップに対する特許に関する手続の代理」との関係で自他役務識別力を有するか否か(商標法第3条第1項第6号該当性)が争われた裁判で、需要者が本件商標をみて、何人かの業務に係る役務であることを認識することができないとの特許庁の判断を支持する判決を言い渡し、原告の訴えを退けました。[令和2年(行ケ)第10125号 審決取消請求事件、第4部:菅野裁判長]

六本木通り特許事務所

 原告(弁理士)は、文字商標「六本木通り特許事務所」を第35,41,42,45類の役務を指定して平成30年3月14日に出願(商願2018-30044。以下、本件商標)し、その後、指定役務を、45類「スタートアップに対する特許に関する手続の代理」に補正しました。

特許庁の判断(商標法3条1項6号)

 これに対し、特許庁は、拒絶査定不服審判(不服2019-11255)において、①本願商標の構成中の「六本木通り」の文字の意味は「東京都千代田区霞が関から渋谷区渋谷までの道路の呼び名」であり、「特許事務所」の文字の意味は「弁理士の事務所」である、②特許事務所が、広く、スタートアップに対して役務を提供している実情にあるから、「特許事務所」の文字は、本願商標の指定役務を提供する者を意味する一般的な名称である、③法律家によって提供される法律事務に関する役務を取り扱う分野において、「○○通り□□事務所」の文字が広く採択、使用されている実情があることから、本願商標をその指定役務について使用した場合、これに接した取引者、需要者は、本願商標を、「六本木通りという呼び名の道路に近接する場所に所在する,弁理士の事務所」程の意味合いとして理解、認識するにとどまり、単に、役務の提供場所あるいは役務を提供する者の所在を表すとして、自他役務の識別力を欠き、商標としての機能を果たし得ないものであるから、本願商標は、需要者が何人かの業務に係る役務であることを認識することができないとして、商標法3条1項6号により、本件商標の登録を拒絶しました。

審決取消訴訟(原告の主張)

 この判断を不服として、原告は、令和2年10月28日、知的財産高等裁判所に審決取消訴訟を申し立て、以下のとおり主張しました。

  • 「〇〇通り□□事務所」の文字が広く採択,使用されているとの取引の実情があるとしても,「〇〇通り□□事務所」は,いずれかの事務所の出所識別表示として用いられているのであり,単に「〇〇通りという呼び名の道路に近接する場所に所在する事務所」の名称と認識されるものではない。
  • 「〇〇通り□□事務所」は,「〇〇通り」という名詞に「□□事務所」という名詞を結合させた複合名詞であるところ,複合名詞は各構成要素の辞書的な意味を単純に足し合わせたものとはならないことが多い類型である。そして,複合名詞である「〇〇通り□□事務所」の語も,単に各構成要素の辞書的な意味を足し合わせた「〇〇通りという呼び名の道路に近接する場所に所在する事務所」程の意味合いとして理解,認識されるにとどまるものではない。
  • 現に,建物の貸与等を指定役務とする「外苑西通りビル」のように,通りの名称に建物を意味する「ビル」との一般的な名称を組み合わせた登録例が存する。役務の提供の場所と役務の提供の用に供する物の一般的な名称を組み合わせたものであっても,一般的な名称に「外苑西通り」のような個別の通りの名称を組み合わせた場合には,全体において,造語として出所識別機能が発揮される。本願商標においても,その全体において造語として需要者に印象付けられる。
  • 本願商標の「六本木通り特許事務所」は,本願商標以外に使用例のない新規で意外性のある複合名詞であり,単に各構成要素の辞書的な意味の足し合わせではなく,それ全体として,造語の結合商標として,需要者に特定の意味を伝える。

知財高裁の判断

 これに対し、知財高裁は、以下のように判断しました。

  1. 本件商標は,道路の通称名である「六本木通り」の文字と,特許に関する手続の代理等を行う者の一般的名称である「特許事務所」の文字とを結合したものと認識,理解される。
  2. 指定役務である「スタートアップに対する特許に関する手続の代理」は,「特許に関する手続の代理」に含まれることは明らかであるから,本願商標の構成中の「特許事務所」の文字は,本願商標の指定役務を提供する者の一般的名称を意味すると理解される。
  3. 本願商標の構成中の「六本木通り」は,令和2年(2020年)9月時点で35年以上の長きに渡り広く一般に慣れ親しまれている道路の通称名であるから,本願商標の指定役務の提供の場所を意味すると理解される
  4. そうすると,本願商標に係る「六本木通り特許事務所」との文字は,本願商標の指定役務との関係で,役務の提供場所と理解される「六本木通り」との文字と,役務を提供する者の一般的な名称と理解される「特許事務所」の文字とを結合させたものであるから,本願商標の指定役務の需要者は,これを「通称を六本木通りとする道路に近接する場所に所在する特許に関する手続の代理等を行う者」を意味するものと認識するというべきである。
  5. 一般的に,複数の語を組み合わせてなる語がそれを構成する各語の意味を結合したものを超える意味を有し得るとはいえるものの,原告は,「通称を六本木通りとする道路に近接する場所に所在する特許に関する手続の代理等を行う者」と認識される本願商標が,その組合せ自体によりこれとは異なる新たな意味を生じさせること,あるいは,使用された結果,何人かの業務に係る役務であることを認識することができるに至っていることを何ら具体的に主張立証していない。

役務の一般名称に地理的名称が結合した態様の商標(例えば、「東京大学」、「湘南美容外科」、「虎ノ門総合法律事務所」)に対する特許庁の識別力の評価は、商品商標と比べ、これまではかなり緩い印象を持っていました。このため、今回の判決を機に、この手の役務商標の名称については、識別力のハードルが高くなることが予想されます。