知財高裁:キューピー商標裁判、世界的に愛されるキューピー人形は、誰のもの?

[Newsletter vol. 118]

100年近く前から日本で商標登録されている、キューピー株式会社(以下、キューピー社)のマスコットキャラクターとしてお馴染みのキューピー人形(商標登録第147269号、以下、本件登録商標)。一方、アメリカ人イラストレーターのローズ・オニール氏がギリシャ神話のキューピッドをモチーフにキューピー人形、「KEWPIE」の名称を創作したのは、これより10年以上も前の1909年。オニール氏の許可を得ずに出願登録された、キューピー人形及び「KEWPIE」の名称からなる本件登録商標は、大正10年商標法2条1項4号に定める公序良俗に反するか、或いは、同項11号の商品の混同を生ずるおそれがあるか、その有効性が争われた裁判で、知的財産高等裁判所は、12月9日、以下のように述べ、本件登録商標は有効との特許庁の判断を支持する判決を言い渡しました。
[令和2年(行ケ)第10028号 審決取消請求事件、第4部:大鷹裁判長]

 ローズ・オニールが創作したキューピー人形及びその名称の「キューピー」が大正2年(1913年)に我が国に紹介された後,「キューピー人形」及びその名称の「キューピー」は,本件出願前(出願日大正11年4月1日)に,日本国内の全国にわたり,広く知られるようになったことが認められる。
 しかしながら,一方で,大正5年(1916年)以降,ローズ・オニールが創作に関与したキューピー人形とは異なる「日本なりのキューピー」人形や,日本文化と関わりを持たせて描かれた絵葉書,年賀状などが発売され,また,日本的な,日本でデザインされたキューピーは,様々な商品のブランド名,広告類のイラスト等や商品の容器等に広く使用されてきたこと,加えて,「その代表たるキューピーちゃんも,最初はドイツで作られたものだそうだが,それが日本でも作られるようになり,いつの間にか日本的キューピーとして生れかわった。そのルーツもあまり知られずに,そのくせ,最近まで,子供の頃に一度もキューピーを手にしていない人はなかったというぐらい大衆性が続いたのは,キューピーが子供ばかりでなく大人にも可愛がられる何かを,強力にもっていたからだろう。」,「遠く太平洋をへだてた島国の日本のこと,生みの親のローズさんのことも,オリジナルの可愛らしいイラストのキューピーもあまり知られないまま,どんどん日本なりのキューピーが作られ,ますます広く愛されたのである。」との記載があることに鑑みると,キューピー人形は,本件出願当時,キューピー人形の創作者がローズ・オニールであることが認識されることなく,西洋文化に由来する幼児姿のキャラクターとして誰もが自由に使用できるものと理解され,全国において,キューピー人形やそれを模した絵柄や図形等が多数作成され,商品のブランド名や広告宣伝等に広く使用される状況にあったものと認められる。

 以上によれば,キューピー人形及びその名称の「キューピー」が,本件出願前に自他商品識別機能ないし自他商品識別力を獲得するに至っていたものと認めることはできず,他人の業務に係る商品を表示するものとして,日本国内における需要者の間に広く認識されていたものと認めることはできない。

 こうした状況のもとで,Aは,大正11年4月1日,本件商標の出願をし,商標登録を受けたものであるから,Aが本件出願に当たり,他人の標章の著名性にただ乗りし,あるいは他人の知的財産を自己のものとして,権利化を図るという「不正の目的」を有していたものと認めることはできず,また,本件商標の出願及び登録が国際信義に反するものと認めることはできないから,本件商標権をAから承継した被告が保有することが,社会公共の利益に反し,又は社会の一般道徳観念に反するものと認めることはできない。

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米国、2021年1月2日から商標手続費用が大幅に値上げ

2021年1月2日より、米国での商標手続費用が改訂され、大幅に値上げされます。

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