[Newsletter vol. 243]
大阪高裁は、令和8年2月13日、被告(ヴェリタス株式会社)の販売する苺に付する「あわ恋いちご」(被告標章)の使用は、原告(有限会社新居バイオ花き研究所)が所有する登録第5006976号商標「恋苺」(本件商標)の商標権を侵害するとした大阪地裁の判決(令和6年(ワ)第5007号、原判決)を不服として、被告が控訴した裁判において、両商標は全体として類似しないとして、被告の主張を認め、原判決を取り消す判決を言い渡しました。[大阪高裁 令和7年(行ネ)第1750号/民事第8部森崎裁判長]
大阪地裁の判断(商標の類否)
被告標章のうち「あわ」部分については、「あわ」には「泡、粟、安房(千葉県南部の旧称)、阿波(徳島県の旧称)」などの複数の意味があり、平仮名表記であるがゆえに多義的なものといえるところ、指定商品との関係において、「あわ」が、例えば「泡」の意味である場合、「あわ」部分も自他商品の識別力を有し得るとはいえるが、「あわ」が「阿波」及び「安房」の意味である場合、「あわ」部分は地域を示す普通名称にすぎない上、産地表示などが広く行われているいちごを指定商品としていることからも、上記識別力があるとはいえない。

本件の取引の実情をみると、被告商品のパッケージには、被告標章のほかに、「徳島県産」とのいちごの産地を示す文字や「徳島県産 阿波のいちご」との文字が付記され、徳島県の伝統芸能である阿波踊りの踊り子や「阿波」と記載された提灯のイラストが目立つ態様で描かれているところ、被告標章の「あわ」の部分につき、漢字ではなく、平仮名表記とはいえ、需要者に対し、地域名称である「阿波」を意味し、産地を表示しているものと想起させる取引の実情があるといえるから、被告標章のうち「あわ」部分の識別力は否定され、「恋いちご」部分を抽出して、本件商標と比較検討することができる。

被告標章の「恋いちご」部分に接した需要者(商品の取引者や消費者)は、本件商標と出所を誤認混同するおそれがあると認められ、両者は全体として類似する。
大阪高裁の判断
- 被告標章は、「あわ恋いちご」の文字をやや丸みのあるPOP体風書体の文字をやや円弧状に横書きして成されたものであり、各文字の大きさ及び書体は同一であって、その全体が等間隔に1行でまとまりよく表されているものであるから、「恋いちご」の文字部分だけが独立して見る者の注意をひくように構成されているということはできない。
- 被告標章の構成中の「いちご」の文字部分は商品そのものを示す普通名詞であるから、その部分は、商品を普通に記述しているにすぎないと理解され、その余の部分である「あわ恋」という言葉は、既存の言葉に「淡い恋心」、「淡い恋」などがあり、また、被告標章の外観が柔らかな印象が与えられるようデザインされていることと相まって「淡い恋」を略して新たに造られた言葉と理解されるものと考えられるから、「恋いちご」の文字部分が、いちごの取引者や需要者に対し被控訴人がその出所であることを示す識別標識として強く支配的な印象を与えるものであったとはいえないことも考え併せると、被告標章は「あわ恋」と「いちご」が結合した標章であり、「あわ恋」の文字部分から出所識別標識としての称呼、観念が生じているというべき。
- 被告標章は、「あわ恋」と「いちご」を組み合わせた結合商標であることを前提に、「あわ恋」の「あわ」の文字部分に被告各商品の産地である地名の「阿波」を掛けていると理解されるにすぎないと考えられることになるから、被告標章と本件商標の類否を判断するに当たっては、被告標章を「あわ」と「恋いちご」に分離して観察することは許されない。
- いずれも果実の名称であるいちごに、本来、味覚を表現しない心理、感情状態の語を組み合わせて、当該果実の味覚を表現するという手法で造られた言葉であるが、「恋」と「淡い恋」で違う観念が想起されるから、これといちごを組み合わせることで生ずる観念も類似するとはいえず、したがって、本件商標と被告標章は全体として類似するということはできない。
