特許庁:自他役務識別力の欠如により、代官山蔦屋書店の内装を表示した立体商標の登録を認めず

[Newsletter vol. 203]


 特許庁は、令和6年6月10日、カルチュア・コンビニエンス・クラブ株式会社が出願した、「代官山蔦屋書店」の店舗の内装を表示した立体商標の自他役務識別力が争われた拒絶査定不服審判において、店舗内装に係る立体形状が、役務の出所を識別する標識として認識させるとはいえないとして、審査官の拒絶査定を支持し、商標法第3条第1項第3号により、本願商標の登録を拒絶する審決を下しました。
[不服2022-9489号審決]


本願商標

 本願商標は、下掲の立体形状よりなるところ、カルチュア・コンビニエンス・クラブ株式会社が、第35類役務「印刷物の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供,紙類及び文房具類の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供」を指定して、2022年4月1日に特許庁に出願しました(商願2020-36012)。

 願書の「商標の詳細な説明」の欄には、『店舗の内部の構成を表示した立体商標であり、各専門ジャンルの売り場へ誘導するストリート(通路)を形成する照明スタンド付き平台、書棚、書棚に設置された案内板、及び、ルーバー状の天井を含む店舗の内装の立体的形状からなる。』と記載されており、本願商標に係る立体形状は、出願人の運営に係る東京都渋谷区所在の「代官山蔦屋書店」にて、2011年12月から使用されています。

画像引用元 https://store.tsite.jp/daikanyama/floor/shop/tsutaya-books/

審査官の判断

 審査官は、「小売等役務を提供する店舗では、顧客の利便性の向上や購買意欲の向上、店舗の魅力の向上等のため、様々な形状が採択、使用されている実情がある。そうすると、需要者は、本願商標を、店舗の内装について通常使用される又は使用され得る形状を表したものと認識するにとどまるから、役務の提供の用に供する物(店舗の内装)の形状そのものの範囲を出ない。したがって、本願商標は、商標法第3条第1項第3号に該当する。」として、2022年3月22日、本願を拒絶したため、出願人は、これを不服として、同年6月21日、拒絶査定不服審判を請求しました。


審判官の判断

 審判官合議体は、以下ように述べ、本願商標は、商標法第3条第1項第3号に該当する、と判断しました。 

  1. 役務等の提供の場所、提供の用に供する物等の形状は、同種の役務の提供の用に供する物等の形状が、その機能又は美観上の理由から採用すると予測される範囲を超えた形状である等の特段の事情のない限り、普通に用いられる方法で使用する標章のみからなる商標として、商標法第3条第1項第3号に該当すると解するのが相当である。
  2. 本願商標の指定役務は、書店などの店舗等において提供されるものであり、取扱商品である書籍や文房具等を品揃えし、顧客のそれら商品の選択が容易となるように、店舗内の書棚や平台に陳列、展示し、幅広い需要者に向けて、書籍や文房具等を購入させるために便宜を図る役務である。
  3. 印刷物等の小売業に係る書店などの店舗等の内装において、天井(ル―バー状のものを含む)、壁面や通路に設置した書棚や平台、案内板(書棚の天井付近に設置したものを含む)又は照明(平台上に設置したランプシェード付きのものを含む)などを備えることは、当該店舗において効率的に書籍や文房具等を陳列、展示し、また、店舗内の美観や利用者の利便性を高めるために必要とされる構成要素であり、それら店舗の内装において極めて一般的に採択されている。
  4. 以上を踏まえると、本願商標の構成要素及びそれらの構成配置はいずれも、その指定役務を提供する店舗の内装としてはその機能を確保するために必要とされるものであるから、客観的に見て、役務の提供の場所、提供の用に供する物等の機能若しくは美観に資する目的で採用された形状、又はそのような理由による形状の選択と予測し得る範囲のものであるから、それを超えて、その立体的形状をもって、役務の出所を識別する標識として認識させるものとはいえない。
  5. してみれば、本願商標は、これを指定役務に使用しても、これに接する取引者、需要者は、その指定役務の提供の場所又は提供の用に供する物を表したものと認識するにとどまり、単に役務の提供の場所又は提供の用に供する物を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標である。
  6. 本願商標の立体的形状を使用する「代官山蔦屋書店」の空間デザインが国内外で様々な賞を受賞し、デザイン的側面が評価されたとしても、それらのことは、需要者等が、役務を選択するに際し、役務の提供の場所、提供の用に供する物等の機能性や、その外観上の美感という嗜好上の意味合いを与え得るにすぎず、客観的に、需要者はそれを未だ指定役務の提供に係る役務の提供の場所、提供の用に供する物等の立体的形状の一類型を表したものと認識するにとどまる。