知財高裁:超小型の豚と触れ合える喫茶店を意味する「マイクロブタカフェ」は自他識別力なし

[Newsletter vol. 240]


知的財産高等裁判所は、令和7年12月23日、登録第6254927号商標「マイクロブタカフェ」(本件商標)の自他役務識別力(商標法3条1項3号)が争われた審決取消訴訟において、本件商標は自他役務識別力を有するとした特許庁の原審決を取り消す判決を言い渡しました。[知財高裁 令和7年(行ケ)第10079号/第2部森富裁判長]


本件商標

 株式会社SaLaDaは、2019年3月11日、標準文字で書された商標「マイクロブタカフェ」を、第35類「カフェテリアの事業の管理」、第41類「愛玩動物の供覧,動物と触れ合うことを目的とした娯楽施設の提供」他を指定して特許庁に商標出願しました(商願2019-36064)。特許庁は、2020年5月28日、本件商標の登録を認めました(商標登録第6254927号)。


無効審判(棄却審決)

 株式会社pignicは、2024年8月13日、本件商標は、第35類「カフェテリアの事業の管理」及び第41類「愛玩動物の供覧,動物と触れ合うことを目的とした娯楽施設の提供」との関係において、商標法313に該当するとして、一部無効審判を請求しました(審判番号: 無効2024-890045)。

 特許庁審判官合議体は、2025年7月17日付け審決において、以下のように述べ、「マイクロブタカフェ」の文字は役務の質を表示したものとして一般に認識されるものであるとはいえないと判断しました。

 『ペットに関心がある一部の者に「マイクロブタ」が「サイズの小さいブタ」を意味するものとして認識されていたといえるものの、我が国ではペットとして一般に入手が困難であるなどの事情があり、獣医でも「マイクロブタ」の存在を認識していない場合があるなど、我が国において、「マイクロブタ」が一般的なペットとして定着し、広く認識されていたと認めることはできない。』、『カフェテリア事業のうち、「動物」さらには「豚」と触れ合えるカフェテリア以外の事業を行っている事業者が大部分であって、「マイクロブタ」と触れ合えるカフェが一般に広く認識されていた実情があったとはいえないことからすれば、カフェテリア事業に従事する事業者等においても、「マイクロブタ」が「ミニブタ」より小さいサイズのブタを表すものであると広く認識されていたとはいえない。したがって、登録査定時において、指定役務の需要者に「マイクロブタ」が「ミニブタ」より小さいサイズのブタを表すものであると広く認識されていたと認めることはできない。』、『触れ合う動物の名称を冠した「○○カフェ」の表示が、動物と触れ合うことを目的とした施設を表すものと一般の需要者等に認識される場合があるとしても、「豚と触れ合うことを目的した施設に「ブタ(豚)カフェ」の表示は、本件の指定役務の質を表示記述するものとして取引に際し必要適切な表示に該当する場合があるといえるが、動物の普通名称ではなく、かつ、我が国で広く認識されている語であると認めることもできないミニブタの数多くのニックネームの1つにすぎない「マイクロブタ」の語と「カフェ」の語を組み合わせた本件商標は、必ずしも指定役務の質を表示記述するものとして取引に際し必要適切な表示であるとまではいえない。』

 株式会社pignicは、2025年8月8日、特許庁の上記審決の取消しを求め、知財高裁に審決取消訴訟を提起しました。


知財高裁の判断 

  1. 「マイクロブタ」の文字部分は、「マイクロブタ」の称呼と「超小型の豚」の観念が生ずるところ、①ミニブタより更に小型の豚である「マイクロブタ」は、2008年頃から、イギリスなどで、ペットとして販売されるようになり、遅くとも平成24年頃には、イギリスで「マイクロブタ」が人気となっていることが、日本において紹介されていたこと、②「マイクロブタ」は、平成27年頃以降、日本においても、ペットとして注目されるようになり、イギリスから初めてマイクロブタの親豚が日本に輸入されたことが報じられた平成30年から登録査定時までの間に、マイクロブタの特徴、飼育の様子等を紹介する記事や動画がウェブサイトに相当数投稿されるなどしてきたこと、③この間、「マイクロブタ」は、ミニブタより更に小型の豚とされ、当初は、ミニブタと異なり、日本国内での流通がほとんどないとされるなど、家畜として飼育される普通の豚はもとより、「ミニブタ」とも区別されていた。そうすると、登録査定時である令和2年5月8日において、「マイクロブタ」は、「ミニブタ」より更に小型の「超小型の豚」を意味する語として、一般に認識されるに至っていたものと認めるのが相当である。
  2. 登録査定時である令和2年5月8日において、既に、種々の動物の名称を冠した、特定の動物と触れ合うことのできる喫茶店が存在し、平成31年春には、マイクロブタと触れ合うことのできる喫茶店も開店していた事情等を考慮すると、登録査定時において、「マイクロブタカフェ」は、「超小型の豚」である「マイクロブタ」と触れ合うことのできる喫茶店を意味する語として、指定役務の取引者、需要者に一般に認識されるに至っていたものと認めるのが相当である。
  3. 本件商標の構成文字の語義及び本件審判請求に係る指定役務の取引の実情に照らすと、本件商標「マイクロブタカフェ」は、「超小型の豚である『マイクロブタ』と触れ合うことのできる喫茶店」という、役務の態様、提供の方法その他の特徴を普通に用いられる方法で表示記述する標章のみからなるものであり、指定役務の取引に際し、必要適切な表示として、何人もその使用を欲するものであるから、特定人によるその独占使用を認めるのを公益上適当としないものであるとともに、一般的に使用される標章であって、多くの場合自他役務識別力を欠き、商標としての機能を果し得ないものというべきである。