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米国連邦最高裁判所:商標権侵害によって被った損害賠償の認定要件として、侵害者の「故意」は不要

2020年4月23日、米国連邦最高裁判所は、商標権侵害事案において、米国商標法(ランハム法)は、侵害者が得た利益を権利者が被った損害と認定するためには、侵害者が「故意」により侵害行為に及んだことを要件としていない、と判示しました。

米国商標法

ランハム法は、商標権侵害の救済措置として、以下を認めています。
• 原告は、商標権侵害により被った損害の賠償請求ができる。
• 原告は、故意侵害に対して、3倍賠償及び代理人費用の支払いを請求できる。

損害賠償が認められる前提条件として、商標同士に出所混同のおそれがある、または、商品やサービスの広告・宣伝において誤解を生じさせる虚偽の表示があり、それによって営業上の利益が害される必要があります。

下級裁判所は、これまで、被告が商標権侵害行為により得た利益を原告が被った損害賠償額と認定するためには、被告が「故意」であったことを必要とするか否か、判断は分かれていました。適切な救済措置の判断において、被告の精神状態は常に重視されてきたものの、法律の文言上、損害額の認定において「故意」を要件とすることは明記されていませんでした。

本裁判の事件背景

Romag Fasteners, Inc. v. Fossil, Inc. 事件では、ハンドバッグ用ファスナーに関する商標が問題となりました。Romag社は、革製品用の磁石止めファスナーを販売しており、Fossil社は、様々な種類のファッションアクセサリーをデザイン、販売しています。両当事者間で締結された契約書に基づき、Fossil社は、Romag社のファスナーを自社製品に使用する許可を得ました。Romag社は、Fossil社が中国の工場を使って偽物のRomagファスナーを製造したことを突き止めましたが、Fossil社は、何ら是正措置をとりませんでした。そこで、Romag社は、裁判所に対し、Fossil社は商標権を侵害し、偽物がRomag社のファスナーであると不実表示したと訴えました。陪審審理において、Fosssil社の行為は、”無神経且つ不誠実”と認定されましたが、Romagの主張に反し、「故意」は認定されませんでした。地裁は、第二巡回控訴裁の判断を引用し、被告が侵害行為により得た利益を原告の損害額と認定するには、「故意」が必要となるが、本件では、そのような証拠は提出されていない、と判断しました。

連邦最高裁判所の判断

最高裁は、商標権侵害訴訟において、故意侵害は、非常に重要な要因であるものの、必要条件ではない、と判示しました。とりわけ、他の条文に「故意」が明記されていない以上、ランハム法43(a)[合衆国法典15巻1125(a)]に限って、「故意」を要件とすることを意図したものと解すべきでないことは明らかである。

また、最高裁は、商標法の歴史的経緯にも触れ、ランハム法の制定に関与した前任者の考えを引用し、1905年の商標法は、故意侵害についての言及がないことを指摘しました。

最終的に、最高裁は、特定の故意侵害に対し、より高額の損害額を認めるには、被告の精神状態を重視しようとするランハム法の精神を踏まえると、必要な要件として「故意」を書き加えていない条文の文言を言葉通りに捉えるべきである、との見解を示しました。

最高裁の判決全文は、こちらからご覧ください。