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知財高裁:新しい商標(位置商標)に対する日本初の司法判断

知的財産高等裁判所は、2020年2月14日、「新しい商標」の識別力について、初めて司法判断を下しました。[令和元年(行ケ)第10125号審決取消請求事件/知財高裁第2部・森義之裁判長]

「新しい商標」とは、動き商標(Motion mark)、ホログラム商標、色彩のみからなる商標、音商標(Sound mark)、位置商標(Position mark)を意味し、平成26年の商標法改正により、文字、図形、記号、立体形状といった「従来の商標」に加えて新たに商標登録が認められるようになり、平成27年4月1日から出願受付が開始されました。

今回の裁判で争われたのは、株式会社トヨトミ(以下、出願人)が平成28年1月29日に第11類「対流形石油ストーブ」を指定して出願した『三段の輪状の炎(虚像)の立体形状に関する位置商標です(商願2016-009831)。この位置商標の詳細な説明には、『石油ストーブの燃料部が燃焼するときに、透明な燃焼筒内部の中心領域に上下方向に間隔をあけて浮いた状態で、反射によって現れる3つの略輪状の炎の立体的形状からなる。図に示す黒色で示された3つの略輪状の部分が、反射によって現れた炎の立体的形状を示しており、赤色で示された部分は石油ストーブの燃焼部が燃焼していることを示している。なお、青色及び赤色で示した部分は、石油ストーブの形状等の一例を示したものであり、商標を構成する要素ではない』と記載されています。

本願商標は、出願人が約40年前から販売している対流形石油ストーブ「レインボー」において、燃焼筒の内面を特殊コーティングで被覆した耐熱ガラスを使用することで、燃焼部に実際に現れた略輪状の炎の虚像が燃焼筒内部に上下方法に間隔をあけて複数現れる特徴に関するものです。

特許庁は、本件特徴は出願人が所有していた特許に係る発明の技術的範囲含まれ、商品等の機能又は美観に資することを目的として採用されたものであるところ、当該形状に商標権を与えることは、特許法による権利の存続期間を超えて半永久的に特定の者に独占権を認める結果を生じさせることになり、自由競争の不当な制限に当たり公益に反するとして、本願商標は商標法3条1項3号に該当し、識別力を欠くため登録を拒絶しました[不服2018-7479号審決]。

出願人は、これを不服として、知的財産高等裁判所に審決取消訴訟を提起しましたが、裁判所は、以下のように述べ、特許庁の審決を支持する判断を示しました。

商品等の形状は、同種の商品が、その機能又は美観上の理由から採用すると予測される範囲を超えた形状である等の特段の事情のない限り、普通に用いられる方法で使用する標章のみからなる商標として、商標法313号に該当すると解するのが相当である。(中略)本件特徴を採用することにより、対流形石油ストーブの燃焼筒内の輪状の炎が四つあるように見え、これにより対流形石油ストーブの美観が向上するから、本件特徴は、美観を向上するために採用された形状であると認められる。また、(中略)本願特徴は暖房効果を高めるという機能を有するものと認められる。そうすると、本願商標は、その機能又は美観上の理由から採用すると予測される範囲を超えているものということはできず、商品等の形状を普通に用いられる方法で使用する標章のみからなる商標であると認められる。したがって、本願商標は、商標法313号に該当する。

さらに、約30年間にわたり本件特徴を有する対流形石油ストーブ「レインボー」を製造、販売しており、平成23年以降の平均シェアが約22.5%を占めていることから、本願商標のみによって出願人の出所識別標識と理解されているとの主張に対して、知財高裁は、店頭で展示されている「レインボー」が使用していなければ、需要者は本願商標を認識できず、認識する機会が限定される点、自然通気形開放式ストーブ(対流形石油ストーブと反射形石油ストーブ)の中で「レインボー」のシェアが2%程度しかない点、広告の内容や頻度、YouTubeに投稿された動画再生回数と識別力獲得との因果関係が明らかでない点等を指摘し、商標法3条2項の該当性を否定しました。

◇判決文は、こちらからご覧ください。

位置商標は、特許庁に約480件出願され、このうち、78件が登録を認められています(2020/3/1時点)。私見ですが、「新しい商標」の中で最も利用価値があるのは「位置商標」だと捉えています。本件は、位置商標というよりも、商品の立体形状の解釈、その識別力が主たる争点になった事案といえます。