[Newsletter vol. 251]
東京地方裁判所は、2026年4月24日、米国法人Zoom Communications, Inc.(以下、被告)が同社のウェブ会議サービスに使用する商標「ZOOM」は、株式会社ズーム(以下、原告)が所有する登録第4940899号商標「ZOOM」(以下、本件商標)を侵害するとして、当該サービスに係るソフトウェアの販売・提供の中止、及び、3億円の支払を求めていた裁判で、被告に対し、1億6621万9358円の支払を命じるも、差止請求については否定する判決を言い渡しました。
[令和3年(ワ)第30910号 商標権侵害行為差止等請求事件、東京地裁民事第29部 澁谷裁判長]
本件商標
株式会社ズームは、主に音楽用電子機器の開発及び販売等をする国内事業者で、2005年8月8日に第9類指定商品「電子計算機用プログラム」他を指定して、下掲の商標を出願し、2006年3月31日、特許庁において商標登録されました(商標登録第4940899号)。

被告標章
被告は、2012年から日本を含む全世界において、企業や個人に対し、下掲の被告標章「Zoom」を用いて、ウェブ会議及びそれに関連するサービスを提供しており、2019年には、日本において40万人を超えるユーザーにより、800万件を超えるウェブ会議が実施。2020年、新型コロナウイルスの感染拡大と政府による緊急事態宣言が発令される中、日本においてテレワーク導入企業が急増、これに伴い本件サービスを含むウェブ会議システムの利用率も大幅に伸び、2020年6月以降、利用数が飛躍的に増え、1年間で、ライセンスを10以上取得する日本国内顧客数が2,500社から20,000社に増加。この結果、同年に行われた調査において「Zoom」の認知度は74.7%にも達していました。

なお、被告標章は、令和2年6月よりも後に、第38類(ウェブ会議通信)、第42類(電子計算機用プログラムの提供)において商標登録されており(国際登録第1365698号、商標登録第6417625号)、2024年4月には、第9類商品「電子計算機用プログラム」を指定商品とする登録第4363622号商標「ZOOM」を譲り受けていました。
東京地裁の判断
争点1.ウェブ会議サービスの利用時にユーザーが無料でダウンロードするソフトウェアは、商標法上の商品か?
商標法2条3項が規定する「商品」とは商取引の目的たり得べき物をいうものと解されるところ、本件ソフトウェアを使用した本件サービスの利用は、ウェブブラウザを介して本件サービスを利用する場合と比較して、使用することができる機能が多く、利便性が高いとされていることが認められる。そうすると、本件ソフトウェアは、ユーザーが本件サービスを利用するに当たり、付加的な価値があると認められ、独立して商取引の目的たり得べき物であるということができるから、商標法2条3項所定の「商品」に当たると認められる。本件ソフトウェアが現在無料で提供されていることなど、本件ソフトウェアの「商品」該当性を左右するものではない。
争点2.本件商標と被告標章との類否、出所混同のおそれ
本件商標と被告各標章は、本件商標が多分にデザイン化され、一見すると多様な見方が生じ得るものであるため、外観上の差異があることは否定することができないものの、両者はアルファベットの「ZOOM」又は「Zoom」の文字それ自体ないしこれをデザイン化したものである点で共通しており、その意味でいずれも外観において類似しているものといえ、また、称呼及び観念において同一であるから、両者の外観、観念及び称呼を全体的に考察すれば、一応類似するものということができる。もっとも、取引の実情として、被告各標章については、令和2年7月以降、ウェブ会議サービスに関する事項に使用する場合には、一般の需要者において、被告の出所を識別する著名な表示として認識されていたことが認められる。
以上を総合して全体的に考察すれば、被告各標章は、これをウェブ会議サービスに関する事項において使用する場合、令和2年6月までは、一般の需要者において、原告の出所を識別するものとして誤認混同するおそれがあったと認められるものの、同年7月以降については、これが被告の出所を識別する著名な表示として認識されることになった結果、もはや原告の出所を識別するものとして誤認混同するおそれがあると認めることはできない。
争点3.差止請求の可否
原告の被告に対する本件商標権に基づく差止請求の可否判断の基準時は口頭弁論終結時であるところ、令和2年7月以降は、被告各標章の使用につき、本件商標との間で出所の誤認混同を認めることはできないから、口頭弁論終結時点において、本件商標権の侵害は認められない。したがって、原告の被告に対する本件商標権に基づく上記使用の差止請求は理由がない。
争点4.原告の損害及び額(商標法38条3項による損害額の推定)
令和2年6月までの被告による被告各標章の使用行為は、本件商標権を侵害するものであるところ、被告は、被告各標章を使用することで法律上の原因なく利益を受け、原告はライセンス料相当額の損失を被ったと認められるから、原告は、被告に対し、民法703条に基づき、利得の返還を求めることができる。そして、被告が原告に対し支払うべきライセンス料相当額については、平成28年2月から令和2年6月までの被告の売上額に使用料率を乗じた金額である1億6621万9358円をもって相当と認め、かつ、被告は、遅くとも本件訴状送達時には、上記利得に関し、悪意の受益者であったと認められる。
Loading Viewer...
