知財高裁:下段の文字部分「肌構造サイエンス」をもって商標類似とした特許庁の判断を取消

[Newsletter vol. 247]


知的財産高等裁判所は、令和8年4月15日商願2023-93738「乳酸菌サイエンス×肌構造サイエンス」(出願人:株式会社ヤクルト本社)は先行登録第6777953号商標「肌構造サイエンス」(商標権者:ロート製薬株式会社)と類似するとした特許庁の審決(不服2025-5701)の判断の妥当性が争われた審決取消訴訟において、特許庁原審決を取り消す判決を言い渡しました。

[知財高裁 令和7(行ケ)10098/第2部森冨裁判長]

本願商標

 原告(株式会社ヤクルト本社)は、令和5年8月23日、上下に並べた2つの異なる円模様内に「乳酸菌サイエンス」の「肌構造サイエンス」の文字を別個に書し、その間に「×」記号を配した下掲態様の商標を、第3類「化粧品,せっけん類」を指定して、商標登録出願しました(商願2023-093738)。


引用商標

 特許庁審査官は、令和7年1月20日、ロート製薬株式会社が所有する「肌構造サイエンス」の文字(標準文字)からなる商標登録第6777953号(指定商品:第3類せっけん類,化粧品他)を引用し、商標法第4条第1項第11号により拒絶しました。


 原告は、昨年4月14日、拒絶査定不服審判を請求し、本願商標の下段部分を抽出し、当該部分のみを引用商標と比較して商標の類否を判断するとしても、本願商標の構成を踏まえると、本件においては、図形部分を含む下段部分全体を引用商標と比較して商標の類否を判断すべきである。そして、下段部分全体と引用商標とでは、称呼が共通し、観念が共通する(又は比較し得ない)ものの、外観については、下段部分が、図形内に「肌構造」と「サイエンス」という、異なる大きさの文字を上下二段に表して成る構成であるのに対し、引用商標は、「肌構造サイエンス」という、同じ大きさの文字を一段で横書きして成る構成であり、取引者や需要者に与える印象、記憶、連想等を総合して全体的に考察すると、本願商標の下段部分と引用商標を同一又は類似の商品に使用しても、商品の出所について誤認混同が生ずるおそれはない。したがって、本願商標と引用商標とは非類似と主張しました。


原審決(特許庁の判断)

 特許庁は、昨年9月9日、以下のように述べ、本願商標を拒絶する審決を下しました。

  • 外観において、その構成全体が相違するものの、本願商標の下段部分と引用商標との比較においては、その文字のつづりを同一にすることから、外観上近似した印象を与える。また、両者は、共に「ハダコウゾウサイエンス」の称呼及び「肌の構造についての科学」ほどの観念を共通にする。
  • してみれば、本願商標と引用商標とは、外観において近似した印象を与え、称呼及び観念を共通にすることから、取引者、需要者に与える印象、記憶、連想等を総合して、全体的に考察すれば、商品の出所について誤認混同を生じさせるおそれのある類似の商標というが相当である。

 原告は、令和7年10月24日、原審決の取消しを求め、知財高裁に審決取消訴訟を提起しました。


知財高裁の判断 

  • 本願商標の構成部分全体からは「ニュウサンキンサイエンスカケルハダコウゾウサイエンス」との称呼、「乳酸菌に関する科学的知見と、肌の構造に関する科学的知見とを、掛け合わせたもの(商品)」ほどの観念が生ずるのに対し、引用商標からは「ハダコウゾウサイエンス」との称呼、「肌の構造についての科学的知見(を利用した商品)」ほどの観念が生ずるのであって、本願商標と引用商標は、称呼においても観念においても類似するとはいえない。本願商標及び引用商標が、その外観、観念、称呼等によって取引者や需要者に与える印象、記憶、連想等を総合して全体的に考察しても、両商標が同一の商品に使用された場合に、その商品の出所につき誤認混同を生ずるおそれがあるとは認められず、本願商標と引用商標は、非類似の商標である。
  • 商標は、その構成部分全体によって他人の商標と識別されるものであるから、複数の構成部分を組み合わせた結合商標について、その構成部分の一部を抽出し、この部分のみを他人の商標と比較して商標そのものの類否を判断することは、商標の構成部分の一部が取引者や需要者に対し商品又は役務の出所識別標識として強く支配的な印象を与えると認められる場合や、それ以外の部分から出所識別標識としての称呼、観念が生じないと認められる場合などを除き、原則として許されない。
  • 本願商標の下段部分の文字部分「肌構造サイエンス」のみが独立して見る者の注意をひくように構成され、同部分が取引者や需要者にその指定商品の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものと認めるのは困難である。また、上段部分の文字部分「乳酸菌サイエンス」は、商品の品質等を普通に用いられる方法で表示するものとはいえず、「ニュウサンキンサイエンス」との称呼、「乳酸発酵に関与する細菌である乳酸菌に関する科学的知見」ほどの観念が生ずるのであって、指定商品との関係において、下段部分の文字部分以外の部分から出所識別標識としての称呼、観念が生じないと認めるのも困難である。
正直、知財高裁の判断には、大変違和感を抱きます。「複数の構成部分を組み合わせた結合商標」について議論がなされていないことが要因の一つだと思います。本願商標を結合商標と捉えるべきなのか?個人的な見解ですが、単に「複数の構成部分からなる商標」と、それらを「組み合わせ結合商標」とを明確に区別し、後願商標が前者の場合には、原則、分離観察が妥当と考えます。

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