[Newsletter vol. 228]
東京地方裁判所は、令和7年7月9日、スイスの国旗を想起させる十字図形商標の類似性が争われた商標権侵害訴訟において、国際登録第1002196号の商標権者である原告(ヴェンガー・エス・アー)の訴えを退け、被告(ゴイチマル株式会社)が楽天市場でネット販売するバッグ「SWISSWINリュック」に付された被告標章は原告商標とは類似しておらず、商標権侵害が成立しない、との判決を言い渡しました。[東京地裁 令和6年(ワ)第70635号/民事第46部高橋裁判長]
原告商標
スイス法人ヴェンガー・エス・アーは、右掲の態様からなる国際登録第1002196号商標(以下、原告商標)を、第18類指定商品「バックバッグ」他において、2010年11月5日より、日本国内で登録しています。

被告標章及び被告商品
ゴイチマル株式会社は、令和6年1月11日から、オンラインショッピングサイト楽天市場上のネットショップにおいて、右掲の被告標章が付されたリュック「SWISSWIN」(商品番号:SW9972。以下、被告商品)を販売しました。
被告商品は輸入会社TRAVELPLUS INTERNATIONAL社から仕入れたもので、「SWISSWIN」は同社の登録商標(#6026579)です。
原告は、被告が被告標章を付した被告商品を販売する行為は、原告商標権の侵害に該当するとして、商標法36条1項及び2項に基づき、被告商品の販売の差止め及び廃棄を求め、東京地裁に提訴しました。

東京地裁の判断
原告商標と被告標章の外観は、外側及び内側に略正方形が配置され、その内部の中央に幅広の十字が配置されているという点において共通する。これらの共通点は、取引者及び需要者が着目する図形の全体的構成に関わるものであるから、取引者及び需要者に対し、類似との印象を与えるものといえる。
一方、原告商標と被告標章の外観は、①外側及び内側の略正方形の四辺に当たる縁(辺)が、外側に向けて湾曲しているか、直線であるかの点、②被告標章の十字が支持棒を有するが、原告商標は有しない点、③外縁部分の幅が、原告商標の方が被告標章より狭い点、④被告標章は、外縁部分並びに十字及び支持棒が、その余の部分より盛り上がっているが、原告商標は平板である点、⑤被告標章は、外縁部分の四隅にはリベット頭部状部分及びそれを囲む円型凹部が、外縁部分の上下左右には棒状凹部が、十字部分には斜線状の溝が4本存在するが、原告商標は平板である点、⑥外縁部分及び十字が白色であるか銀色であるかの点、⑦⑥以外の部分が黒色であるか赤色であるかの点において相違する。原告商標と被告標章は、いずれも略正方形に囲まれた十字から成る比較的単純な構成であるため、取引者及び需要者が上記相違点を看取することは容易である。上記①~⑤の相違点によって、原告商標が平板でシンプルな印象を与えるのに対し、被告標章は、より重厚かつ複雑な印象を与える。また、上記⑥及び⑦の相違点について、被告標章の色彩は、モノトーンではないという点で、全体として原告商標の色彩と異なる印象を与える。これらの相違点は、上記の共通点から受ける類似との印象を凌駕し、原告商標と被告標章の外観は、顕著な差異がある。
したがって、原告商標と被告標章の外観は、取引者及び需要者に異なる印象を与えるものといえ、類似するとはいえない。
原告商標と被告標章からは、「十字」又は「クロス」の観念及び「ジュウジ」又は「クロス」の称呼が生じ得るから、両者の称呼及び観念は同一である。原告商標は文字を含まず図形のみからなる商標であるが、インターネット上のショッピングサイトにおいて、取引者及び需要者は、主に商品名やブランド名等を利用して商品を検索し、購入するといえ、図形から生じる「十字(ジュウジ)」及び「クロス」という観念及び称呼に基づいて商品の検索等を行うことは想定し難い。
そうすると、原告商標と被告標章の観念及び称呼が同一であることによって取引者及び需要者に与える印象、記憶及び連想等が大きいとはいえず、前記の外観の差異は、観念及び称呼の共通性を凌駕する。
以上によれば、原告商標と被告標が同一の商品であるかばんに使用された場合に、その外観、観念及び称呼によって取引者及び需要者に与える印象、記憶及び連想等を総合して、その商品に係る取引の実情を踏まえつつ全体的に考察したとしても、原告商標と被告標章が、商品の出所について誤認混同を生ずるおそれがあるとはいえない。
原告は、被告商品は被告サイトで販売されているところ、同サイト上の被告商品の写真には、被告標章が小さく写され、画像も不鮮明であるから、取引者及び需要者は、前記①~⑥の相違点を看取することができないか、看取することができたとしても、共通点と比べると微差にすぎないと主張する。しかし、被告サイトには複数の被告商品の写真が掲載されており、被告標章について、前記の相違点を看取することができるといえ、以上によれば、相違点について微差にすぎないとの評価は当たらない。
