知財高裁:図形付き商標「キリンフーズ」は、要部「キリン」においてKIRINと類似

[Newsletter vol. 227]


知的財産高等裁判所は、令和7年6月16日、第30類「ぎょうざ,中華まんじゅう」他を指定商品とする登録第6687612号商標「キリンフーズ(図形付き)」(以下、本件商標)は、キリンホールディングス株式会社の商標「KIRIN」、「キリン」、「麒麟」(以下、引用商標)とは類似せず、商標法第4条第1項第11に該当しないとした特許庁の審決(無効2023-890059号)の是非が争われた審決取消訴訟において、特許庁の判断を覆し、両商標は類似するとして、本件商標の登録を無効とする判決を言い渡しました。

[知財高裁 令和6(行ケ)10107/第3部中平裁判長]

本件商標

 キリンフーズ株式会社は、2021年2月22日、右掲の態様からなる商標「キリンフーズ」を、第30類「ぎょうざ,しゅうまい,中華まんじゅう,ハンバーガー,ホットドッグ,穀物の加工品」を指定して商標登録出願しましたが(商願2021-27211)、特許庁は、引用商標と類似するとして、商標法第4条第1項第11号により拒絶しました。出願人は、これを不服として、2022年7月25日、拒絶査定不服審判を請求しました(不服2022-11488号)。


拒絶査定不服審判

 特許庁は、2023年2月6日、『外観においては、図形部分の有無及び文字種の差違に加えて、構成文字の語尾の「フーズ」の文字の有無の差違から、全体としては異なる語を表してなるため、互いに判別できる。称呼においては、いずれも語頭の「キリン」の3音を共通にするものの、語尾の「フーズ」の3音の有無に差違があるから、全体として聴別できる。観念については、本願商標は特定の観念は生じないから、引用商標から観念が生じるとしても、比較できない。そうすると、観念において比較できないとしても、外観及び称呼において判別及び聴別は可能だから、互いに相紛れるおそれはなく、類似する商標とは認められない。』として、拒絶査定を取消したことから、本件商標は2023年4月7日に設定登録されました。


無効審判

 キリンホールディングス株式会社は、2023年7月20日、本件商標の図形部分と文字部分は分離抽出され、「フーズ」の文字が自他商品識別力を有しないことから、本件商標中の「キリン」の文字部分が要部と主張し、商標法第4条第1項第11号及び第15号違反を理由に、無効審判(無効2023-890059号)を請求しました。

 特許庁は、2024年11月14日、『顕著に表された特徴のある図形部分と文字部分とに「麒麟」(想像上の動物)を漠然と連想するものであるから、本件商標は、全体として不可分一体の商標として判断するのが相当である。当該図形部分の動物が、特定の動物を理解させる特徴を有するものとはいえないから、当該図形部分からは称呼や観念が生じるとはいえない「フーズ」の文字が本件商標の指定商品との関係で特定の商品又は商品の品質を具体的に表示するものとして直ちに理解できるものともいい難いこと、文字部分の構成態様がまとまりよく一体的に表されていることからすれば、本件商標の文字部分は一体のものとして認識されるものであり、「キリン」の文字のみを分離して看取すべきといった必然性は見いだせない。』として、請求を棄却(原審決)したことから、同社は、2024年12月16日、原審決の取消しを求めて、知財高裁に提訴しました。


知財高裁の判断 

  1. 本件商標の構成中の図形部分は、本件商標の全体構成において5分の4ほどを占める大きさで表されている。本件商標の図形部分と文字部分とは、相互に重なり合う部分もなく、上下に明確に分かれていること、文字部分が図形部分に埋没した印象を与えることもなく、「キリンフーズ」の文字が明瞭に認識できる大きさであることから、両者は視覚的に分離して看取される
  2. 本件商標は、図形部分と文字部分とからなる結合商標と理解されるところ、図形部分と文字部分とは、それを分離して観察することが取引上不自然であると思われるほど不可分的に結合しているものとは認められず、図形部分と文字部分とが一体として看取されるといった必然性も見出せないから、本件商標からは、文字部分を抽出し、当該文字部分だけを各引用商標と比較して商標の類否を判断することも許される
  3. 「フーズ」の語は食品を意味する英語「foods」を片仮名表記したものとして周知であること、企業名の後ろに「フーズ」を付して食品会社であることを示す例も多数見受けられるところ、これらの例では著名な企業名が「フーズ」の前に冠されていることからすると、本件商標の文字部分のうち「フーズ」の部分の自他識別力は、「キリン」の部分に比べ弱い
  4. 本件商標の図形部分は、その姿に加え、文字部分の一部である「キリン」と相まって、「麒麟」をモチーフにしたものという印象を与えるところ、図形部分及びそれを含む本件商標全体の態様や、識別力の弱い「フーズ」の語が著名な企業名の後にくる例があること、及び、「キリン」の文字部分に係る企業の周知性に鑑みると、本件商標の図形部分は、文字部分の「キリン」に看者の注意を集めるという面もあるということができ、(中略) これらによると、本件商標は、文字部分のうちの自他識別力を有する部分である「キリン」を要部として抽出することができる
  5. 本件商標と引用商標は、外観において相違するものの、想像上の動物である麒麟の観念及び「キリン」の称呼を共通にするものであり、本件商標からは「キリンフーズ」との称呼も生じるものの、商品の自他識別標識として分離抽出することができる要部から生じる「キリン」の称呼及び想像上の動物である麒麟の観念を共通とするものであり、外観の相違は、称呼、観念の共通性による印象を凌駕するほど顕著なものということはできないといえる。
特許庁の審判では、2回とも、本件商標構成中の「キリン」の文字部分の分離観察(要部論)が否定されましたが、裁判所は要部論を認めました。「キリン」が既成語であることからすれば、特許庁の判断は最近の商標の類否判断の傾向に即したものといえますが、裁判所は、引用商標の周知性を肯定的に評価したものと思われ、有名商標保護の観点において、結論は妥当かと思います。