特許庁:飲食店の名称における、「山水園」と「さんすい苑」は、商標非類似

[Newsletter vol.225]


特許庁は、令和7年5月14日、第43類「飲食物の提供」を指定する商願2024-63255さんすい苑(以下、本願商標)と、先行登録第4802922号商標「山水園」(以下、引用商標)との商標類否が争われた拒絶査定不服審判において、両商標は非類似であるとして、審査官の拒絶査定を取消し、本願商標の登録を認める判断を下しました。[不服2024-20467号審決]


本願商標

 有限会社サンエイは、2023年12月1日、商願2023-133680の分割により、標準文字からなる商標「さんすい苑」を、第43類「飲食物の提供」を指定して、特許庁に出願しました(商願2024-63255)。


引用商標

 特許庁審査官は、2024年9月20日、本願商標は、引用商標「山水園」「サンスイエン」の称呼を共通し、観念については比較することができない外観について、両者は共に、標準文字のみからなる商標であり、かつ、特徴のある外観を備えるものとは認められないから、これらを総合的に考察すると、両者は互いに類似する。また、本願商標に係る指定役務は、引用商標に係る第43類指定役務「飲食物の提供」と同一の役務であるとして、商標法第4条第1項第11号により、本願商標の登録を拒絶しました。

 有限会社サンエイは、2024年12月20日、不服審判を請求し、「飲食物の提供」に係る業界において、「サンスイエン」の称呼が生じ得る商標は多数使用(東京都港区「山水緑」、東京都品川区「山水苑」、群馬県高崎市「山水苑」、宮城県仙台市「三水苑」、佐賀県鹿島市「山水苑」、高知県高知市「三翠園」、愛知県岡崎市「山水苑」、山口県山口市「山水園」)も、出所の誤認混同が生じていない実情により、需要者は、称呼よりも観念、外観をもって役務の出所を明確に識別する、と主張しました。


登録審決(特許庁の判断)

 本願商標の「さんすい」の文字が、「山と水」の意味を有する「山水」の語や「水をまくこと」の意味を有する「散水」の語に通ずるものであり、「苑」の文字が「果樹・野菜・花などを植えた畑」の意味を有する語であるものの、これらを結合してなる「さんすい苑」の文字全体としては、辞書等に掲載のないものであって、特定の意味合いを認識させるものではない。したがって、本願商標は、その構成文字に相応して、「サンスイエン」の称呼を生じ、特定の観念を生じない

 引用商標は、「山水園」の文字を標準文字で表してなるところ、その構成中の「山水」の文字は「山と水」の意味を、また、「園」の文字は「果樹・野菜・花などを植えた畑」の意味を有する語であるものの、これらを結合してなる「山水園」の文字全体としては、辞書等に掲載のないものであって、特定の意味合いを認識させるものではない。したがって、引用商標は、その構成文字に相応して、「サンスイエン」の称呼を生じ、特定の観念を生じないものである。

 そうすると、本願商標と引用商標とは、称呼を同一にし、観念において比較することができないとしても、外観において判然と区別できるから、両者の外観、称呼及び観念によって、取引者、需要者に与える印象、記憶、連想等を総合して全体的に考察すれば、両者は、非類似の商標というべきである。

審査と審判とで、日本語の文字からなる商標同士の外観の類否評価が異なりました。漢字と平仮名の違いを「構成文字、文字種及び文字数が異なるという顕著な差異を有する」と認定した審決には、かなり違和感を感じます。文字全体として辞書に掲載されていなくとも、表意文字である漢字からなる引用商標からは意味合いが認識され得ること、また、同じ名称の飲食店が引用商標権者と関係なく多数存在することを踏まえた上での結論でないと、同じ読み方でも、別の漢字や平仮名に変えれば、問題なく商標として使用、登録できてしまうかのように解されてしまい、商標登録のインセンティブ・メリットが弱くなることを懸念します。